知らない町に行きたいなあ。知らない町を散策し、たまたま目に留まった酒場に飛び込んでみたいものだなあ。なんていう日がどうも迫りつつあるかに思える日々が続いているけれど、この文章がアップロードされる頃には果たしてどうなっていることやら。これからお邪魔しようとしているお店は、緊急事態宣言の発出に伴い、その解除までのしばしの間、店を休業するということのようです。それを知った常連さん(なんだろうか)で店は満席状態で、何とかかんとか入店を了承して頂けたという次第だったのであります。今となってはそう長い期間のお休みということでもないように思われますが―これはあくまでも客側の視点からの感想です―、お客さんたちはさも名残惜しそうな様子で席を立ちがたいといったムードが濃密に感じ取れたのでした。
こちらにお邪魔したのは十年振りになりますでしょうか。いや、知らぬ間にもっと歳月が経過しているようにも思えます。店舗の前面を覆い尽くすような大きな暖簾が目印の「深川酒場」です。初めて訪れた際には、外観のインパクトに比して店内は至って平凡だったという印象が強く、そのまま再訪する機会を逸してしまっていました。加えてその日はたまたまだったのかもしれないけれど、他にはほぼお客さんもおらず、そのことが好ましくない印象となって残ってしまったのかもしれません。でもこの夜は非常に賑わっておりました。小上がりの奥の席に空きがあったからいいけれど、その場所は独りでやっている女将さんからはかなりの距離があるから注文も通りにくそうだし、いちいち酒や肴を届けてもらうのも気が引けてしまいそうです。実際そうだったので、あまりちょこまかと頼まないようにしました。肴も盛り付けるだけで手間入らずの煮物を数種盛合せてもらうことにしました。酒は温めてもらったので、何度か足を運べばいいでしょうか。なんてことを考えたりもしましたが、他のお客さんたちも気配りしてくれたりしてそんなにご負担をお掛けせずに気持ちよく呑むことができるのです。それもこれも女将さんの人徳といったところなのかもしれませんが、お客さんのほとんどが夜毎通うご常連さんらしく、とりわけ女性の方が多いのが印象に残ります。中には手土産持参のご夫婦なんかもいらしたりして、この夜から再開まではそんなに長い期間ではないと思いますが、きっと今頃心待ちにしておられず方も少なくなさそうです。