近頃何かと気力が湧かなくなっていて、呑みたくはあるのだけど、見知らぬどこかに足を運ぶことに以前ほどの強い執着がなくなってきていると感じています。それでもたまにエイヤっと気合を入れて駅を背にして歩きだしてみると実にいい感じの感銘すら覚えるような酒場に遭遇することもあるのだけれど、基本的にはそうした出来事は稀でありまして、やはり帰宅する際のことが脳裏に去来してしまい駅近で済ませようという意思が圧倒的に優勢となるのでした。いやいや、それは酒場巡りを始めてから常に変わらぬ気持ではなかっただろうか。初めのうちは、当然ながら駅近物件の未訪店がたくさんあったから電車に飛び乗る気力を振り絞りさえすればそう苦労するまでもなく目当ての物件に辿り着けたのでした。今は、都内近郊の駅近物件は相当数猟食し尽してしまったから、目指すべき酒場を知り得たとしても、そこに行き着くまでには電車に飛び乗って、駅から延々と歩くという二重の気力が求められることになる訳で、そりゃまあ当たり前に面倒に感じてしまうわけです。大体においていつも書いているようにぼくは面倒くさがりなもんで、幸いなことには歩くのは嫌いではないけれど、歳を重ねるごとに時間の経過が早まっているように感じられるものだから、酒場で過ごす時間を織り込むとそうそう酒場探索に時間を費やすわけにはいかなくなっているのです。なんてことを書いているうちにそれなりの尺を稼げたからこの話はここまでにしておきますが、もう歩き尽したと思い込んでいた亀有駅で不意に気が向いて下車し、もう散々っぱら歩いたはずのとおりにちょっと入ってみても良さそうな居酒屋が散在したのだから不思議なものです。かつてはこういうごく当たり前の表情を浮かべる酒場は視界に収まらなかったとでもいうのだろうか。
そんな一軒「海舟」にお邪魔してみます。外観もそうですが、店内もごくごく標準的な内装でありました。これじゃいかにも横着な書きっぷりでちっともイメージが湧かないでしょうからもう少し具体的に書くとすると、照明をぐっと控えめに落とした嫌味にならない程度にモダンな焼鳥店っていったところでしょうか。ぼくが理想として思い描くタイプの酒場ではないけれど、たまにはこういうのもいいかな、っていうか未訪店というだけでそれなりに心が浮き立つのでありました。お客さんは女性が多いですねえ。以前は女性に愛される酒場ってのは少しもぼくの興味の対象ではなかったけれど、最近は日和気味のぼくなんかよりずっと攻めの姿勢で酒場を巡ってる方も少なくないようだから全くもって侮れないのであります。さて、焼鳥屋に来ておきながら実は焼鳥気分ではなかったというのもどうかと思うけれど、すでに入ってしまったこともあるし焼鳥屋だからと焼鳥以外はメニューがないっていうほどに頑固な店ではなさそうだからまずは酒を頼んでからゆっくり肴は検討すればよいのであります。って書いたけれど、悩んだ挙句に頼んだのはレバーペーストでした。他にも頼んでいるけれど実はほぼ記憶に留めていません。ここ数年で美味しいものへの欲望は増しているはずだからどれも普通だったのかな。少なくともレバーペーストに関してはぼくが手作りしたものの方が上をいくということには自信をもって言い切ってしまいます。とまあ、率直な感想を述べてしまいましたが、店の方はとても好感が持てました-店主は寡黙で真面目そうだし、従業員の女性は無表情ですがキビキビとした動作が気分がいい-。だからこそ女性客が多いのかなあなんてことを思いました。いずれにせよこういう普通のお店がそこここにあるのが亀有の強味なんだろうなあとよく知りもしないのに分かっているような発言をしてしまうのが良くないんだろうなあ。