週刊 読書案内 廣野由美子・桒山智成「変容するシェイクスピア」(筑摩選書)
廣野由美子・桒山智成「変容するシェイクスピア」(筑摩選書) 市民図書館の新入荷の棚で見つけました。 筑摩選書とか、平凡社ライブラリーとかあると手が出てしまうわけですが、イギリスのお芝居の、劇場中継映画で「マクベス」とか見た直後だったこともあって「おおー、シェイクスピア解説か!?」 とか、なんとかで、借り出してきました。 京都大学の廣野由美子と桒山(くわやま)智成という英文学の先生による、シェイクスピアの文学や童話、舞台や映画での受容の歴史を紹介した本で、書名は「変容するシェイクスピア」(筑摩選書)です。 廣野由美子さんが「小説の中のシェイクスピア」を、桒山智成さんが「舞台とか映画の中のシェイクスピア」の解説・紹介を担当されています。 廣野由美子さんの本書での論考の柱は、下の目次を御覧になればおわかりでしょうが、メアリー・ラム、チャールズ・ラム「シェイクスピア物語(上・下)」(岩波文庫・他)という、日本の子どもたちも読むことができる、子ども向けの改作・シェイクスピア・ダイジェスト本がありますが、その本をめぐって、メアリ・ラムとチャールズ・ラムというラム姉弟の紹介から始まり、シェイクスピアの本文と改作との比較検討研究の、まあ、素人向けの解説ですが、実は、結構めんどくさいです(笑)。 で、本書の雰囲気を、ちょっと紹介すると 少女小説「赤毛のアン」 ルーシー・モンゴメリの「赤毛のアン」(1908)は、男の子を養子にしたいと考えたマシューとマリラ兄妹の家へ、孤児のアンが間違って連れてこられるところから始まる。我が家ができると大喜びだったのに、翌日自分が返されると知った少女は、がっかりする。「名前は?」とマリラに尋ねられたとき、彼女は「私をコーデリアと呼んでいただけませんか?」と熱心に頼む。本当の名前を尋ねられて「アン・シャーリー」としぶしぶ答えたあと、彼女は言う。「でも、どうかコーデリアと呼んでください。ここにちょっとの間しかいないんですもの」「私はいつも、自分の名前がコーデリアだと想像してきたんです」「アンという名を呼ぶなら、せめて”e”のついた綴りのアンで呼んでください」という有名なくだりである。 本好きで、物語の空想の中で生きてきたアンが、「このうえなく優雅な名前」だと思っているコーデリアとは、シェイクスピアの「リア王」の末娘のことを指しているようだ。父央に誤解されて悲劇的な人生を歩んだ、この心美しい女性のイメージから、アンはこれまで孤児として苦労してきた自分の不運を重ねつつ、空想の中でコーデリアを演じたいと思っていたのだろう。(P36) と、まあ、こういう具合ですね。モンゴメリは100年以上前の人ですが、彼女の「赤毛のアン」は、極東の島国でさえも、今でも読まれています。 リア王の三姉妹をご存知ない方でも、子どものころに読んで心に残っている、あの、赤毛の少女アンが、シェイクスピアの戯曲「リア王」の登場人物にあこがれていたんだと気付くところから、「シェイクスピア! 読んでみませんか。」 と声をかけていらっしゃるのが廣野由美子さんというわけですね(笑)。 下に、本書の目次を貼りましたが、第2章で廣野由美子さんが論じていらっしゃるラム姉弟の『シェイクスピア物語』(岩波文庫)に所収されている、子供向けシェイクスピア作品のライン・アップはこんな感じです。「シェイクスピア物語(上・下」(岩波文庫) 上巻=あらし・真夏の夜の夢・冬物語・から騒ぎ・お気に召すまま・ベローナの二紳士・ベニスの商人・シンベリーン・リア王・マクベス 下巻=終わりよければすべてよし・じゃじゃ馬ならし・まちがいの喜劇・しっぺい返し・十二夜・アテネのタイモン・ロメオとジュリエット・ハムレット・オセロー・ペリクリーズ 大きなお世話ですが、シェイクスピアをご存知ない方は、この文庫のラインアップくらいをお読みになってから、本書に戻られた方が、めんどくさくなくていいかもですね。 ついでに目次も貼っておきます。目次序章 小説の中のシェイクスピア―『高慢と偏見』『大いなる遺産』『赤毛のアン』ほか1 小説に現れたシェイクスピア2 シェイクスピア、二〇世紀の小説世界へ第1章 劇場の中のシェイクスピア―『ロミオとジュリエット』1 シェイクスピアの台詞と劇場2 シェイクスピアの台詞とライブ上演の感覚3 シェイクスピアの作品の重層性第2章 子供の世界のシェイクスピア― ラム姉弟の『シェイクスピア物語』1 ラム姉弟の人生と文学活動2 劇から物語へ3 メアリの喜劇とチャールズの悲劇第3章 映画の中のシェイクスピア―『ヘンリー五世』『蜘蛛巣城』1 ローレンス・オリヴィエの『ヘンリー五世』2 黒澤明の『蜘蛛巣城』) 追記 ところで、このブログをご覧いただいた皆様で楽天IDをお持ちの方は、まあ、なくても大丈夫かもですが、ページの一番下の、多分、楽天のイイネボタンを押してみてくださいね。ポイントがたまるんだそうです(笑)