週刊 読書案内 小山哲・藤原辰史「中学生から知りたい ウクライナのこと」(ミシマ社)
小山哲・藤原辰史「中学生から知りたい ウクライナのこと」(ミシマ社) 岡真理・小山哲・藤原辰史「中学生から知りたい パレスチナのこと」(ミシマ社)という本を読む中で見つけた本の1冊が、小山哲・藤原辰史「中学生から知りたい ウクライナのこと」(ミシマ社)という今回案内するこの本です。ミシマ社という小さな(多分)出版社の本です。「ガンバレ、ミシマ社!」 まあ、そんなふうに声をかけたくなる本でした。小山哲さんというポーランド史の研究者と藤原辰史さんという農業史の領域から歴史を研究なさっている、ともに京都大学で教えていらっしゃる二人の学者さんが、今、ロシアの攻撃を受けて戦っているウクライナという国の歴史に視点を据えながら、「両国の関係」、「宗教と民族」「地域の特徴」をめぐって、それぞれが講義され、たがいに対談なさっているという本です。 具体的な記述や話し合いの内容や、お二人のこの戦争に対する考え方を知りたい方は、どうぞ本書を手に取っていただきたいと思います。「中学生から知りたい」と銘打っていますが、ゴジラ老人には、ほぼジャスト・ミートな内容でした。 私が小学生のころ「戦争を知らない子供たち」という歌がヒットしました。小学生のクラスで作った歌集に入っていて、遠足に行くとき、バスの中でみんなで歌った記憶があります。ふりかえってみて、大学生時代の私の歴史学への疑いの気持ちは、「戦争を知らない子ども」のひとりとしての感覚に根ざしていたように思います。 しかし、子ども時代のの私は、本当に戦争を知らなかったわけではありません。ヴェトナム戦争は私が生まれる前からはじまっていて、私が中学を卒業するころに終結しました。確かに私の頭上に爆弾が降ってくることはありませんでしたが、在日米軍はこの戦争の戦略に深く組み込まれていて、藤原さんが対談のなかで触れているように、日本でも反戦運動が起こっていたのです。 歴史の勉強を続けるうちに、私は。自分が戦場で敵を銃で売ったり、敵から爆撃されたりする体験を持たないという意味で「戦争を知らない」ことは素晴らしいことだけれども、実際に起こった(あるいは、起こっている)戦争を認識しないという意味で「戦争を知らない」ことは、知的な態度として、また倫理的にも、よくないことではないか、と考えるようになりました。ヘロドトスやトゥキュディデスの歴史叙述の意義についても、今の私は、学生時代とい時代とはちがった視点で受けとめています。(P205) 小山哲さんが「おわりに」と題したあとがきで述べていらっしゃる一節です。「戦争を知らない」ことは、知的な態度として、また倫理的にも、よくないことではないか 何気ない言葉のようですが、この年になって「今さら」という気分に陥りがちな、彼よりも10歳ほど年長ですが、同じ時代を「戦争を知らない」中学生、高校性としてすごしていたことを思い出しながら、読み終えた老人を励ましてくれた言葉です。 中学生、高校生には、決して「わかりやすい」というわけではないだろうなという内容ですが、若い人たちが手に取ってくれるといいなという本でした。 目次と著者のプロフィールを貼っておきますね。小山さんの著書は読んだことがありませんが、藤原さんの著書で「ナチスのキッチン」(水声社)とか「トラクターの世界史」(中公新書)とか、ボクも読みましたが、なかなか評判らしくて、面白いですよ。目次はじめにⅠ ウクライナの人びとに連帯する声明(自由と平和のための京大有志の会)Ⅱ ウクライナ侵攻について(藤原辰史)Ⅲ 講義 歴史学者と学ぶウクライナのこと 地域としてのウクライナの歴史(小山哲) 小国を見過ごすことのない歴史の学び方(藤原辰史)Ⅳ 対談 歴史学者と学ぶウクライナのこと(小山哲・藤原辰史)Ⅴ 中学生から知りたいウクライナのこと今こそ構造的暴力を考える(藤原辰史)ウクライナの歴史をもっと知るための読書案内(小山哲)おわりに小山哲(コヤマサトシ)1961年生まれ。京都大学大学院文学研究科教授。専門は西洋史、特にポーランド史。共編著に『大学で学ぶ西洋史 [近現代]』、『人文学への接近法――西洋史を学ぶ』など。藤原辰史(フジハラタツシ)1976年生まれ。京都大学人文科学研究所教授。専門は現代史、特に食と農の歴史。著書に『縁食論』(ミシマ社)、『トラクターの世界史』『カブラの冬』『ナチスのキッチン』(河合隼雄学芸賞)、『給食の歴史』(辻静雄食文化賞)、『分解の哲学』(サントリー学芸賞)など 追記 ところで、このブログをご覧いただいた皆様で楽天IDをお持ちの方は、まあ、なくても大丈夫かもですが、ページの一番下の、多分、楽天のイイネボタンを押してみてくださいね。ポイントがたまるんだそうです(笑)