ニコラ・バニエ「グランド・ジャーニー」シネ・リーブル神戸no60
ニコラ・バニエ「グランド・ジャーニー」シネ・リーブル神戸 予告編を見ていて、見たくなった映画です。 理由ははっきりしています、コンラート・ローレンツという人が書いた「ソロモンの指輪」(早川書房)という面白い本があります。動物行動学の初歩を楽しく紹介した入門書ですが、その中にガチョウの「刷り込み」の話があります。 卵から孵化したばかりの雛鳥は、最初に目にした動くものを「母鳥」だと認知して行動するという現象で、ローレンツ自身が「母鳥」になって雛鳥を引き連れている写真も、その本にあったと思います。 その「刷り込み」で親になった人間が「カリガネ・ガン」のヒナを連れて「渡り」を教えるというらしいのですから、見ないわけにはいきません。 映画はネット・ゲームにオタク化している少年トマと母親パラオの生活シーンから始まりました。 実はこの映画は鳥の研究に熱中している夫クリスチャンに愛想を尽かせているパオラが新しい男性と暮らし始めているという、ありがちな「家族崩壊」のなにげないシーンから始まり、その「再生の物語」の行方を描くという設定なのですが、ぼくの興味は、「刷り込み」の結果、人間を「親」だと思い込んでいる「絶滅危惧種」の「カリガネ・ガン」の行方の方にありました。 カリガネ・ガン(ウキペディア) 鳥と人間のかかわりを撮った映像のどこまでがドキュメンタリーで、どこからが特撮なのかという疑いを感じさせるシーンが、あることはありますが、少年の乗る「軽量飛行機」を「渡り」のリーダーと信じて(?)、鳥たちが付き従うシーンは驚きの連続でした。 北極海に面したノルウェーのラップランドから地中海にあるフランスの沼沢地カマルグ迄、ヨーロッパ大陸を飛び越えていく「グランド・ジャーニー」が映し出す空撮シーンはなかなか見ごたえがありました。 環境保護や現代の家族の問題といった社会性が映画を支えているのはよくわかりますが、ぼくには「人間になつく野生(?)の渡り鳥」の姿のリアリティがすべてといっていい映画でした。 家族崩壊なんてことにはなっていないにしても、コロナ騒ぎの中で「ネットおたく」化してしまいがちな少年や少女たちの眼に、14歳の少年が絶滅危惧種の鳥たちを引き連れて大空を飛ぶ世界がどう映るのか、ちょっと見せてみたい気がするのは、ぼくがネットのヴァーチャルになじめない老人だからでしょうか。 ともあれ、渡り鳥を引き連れて飛んでゆく少年の姿が地上から発見され、「情報」として拡散され、称賛の輪が広がっててゆくのも、SNS上であるわけで、現代のソーシャル・ネットワークの働きについて、改めて考えさせらる映画でもありました。 監督 ニコラ・バニエ 製作 クレマン・ミゼレ マチュー・ワルテル 製作総指揮 ダビ・ジョルダーノ 脚本 マチュー・プティ クリスチャン・ムレク ニコラ・バニエ リル・フォッリ 撮影 エリック・ギシャール 美術 セバスチャン・ビルシュレ 衣装 アデライド・ゴスラン 編集 ラファエル・ウルタン 音楽 アルマン・アマール キャスト ルイ・バスケス(トマ・雁と旅行する少年) ジャン=ポール・ルーブ(クリスチャン・トマの父・鳥類学者) メラニー・ドゥーテ(パオラ・トマの母) フレッド・ソレル(ビョルン・鳥類学者) リル・フォッリ(ダイアン・新聞記者) 2019年・113分・フランス・ノルウェー合作 原題「Donne-moi des ailes 2020・07・30シネ・リーブル神戸no60ボタン押してね!にほんブログ村