映画の時間 ケン・ローチ「オールド・オーク」シネリーブル神戸no377
ケン・ローチ「オールド・オーク」シネリーブル神戸 人が多いところを避けていた連休なのですが、辛抱たまらなくなって見ました。ケン・ローチの新作、「オールド・オーク」です。しみじみと胸うたれ、励まされました。 ケン・ローチ89歳だそうです。70歳を越えて、威張れるようなことは何一つしなかった人生とやらを振りかえりながら、認知の恐怖におびえている老人が、89歳の監督が、「もうこれで引退」とかおっしゃったらしい映画なのですが「しっかりしいや!」と両の肩を揺さぶられるような励ましを感じる作品でした。 イングランドの海が見える炭鉱の町にシリアからの難民が到着します。石炭が見捨てられ、それと一緒に働いている人も見捨てられたかのような廃坑の町です。すさんだ町の人たちのヘイトの嵐です。「なんで、そんなふうにいうの?」 もう、それを見ているだけで、怒りよりも涙がこぼれてしまうのですが、心ない若者にカメラを壊されてしまったヤラという女性に、謝っているTJと呼ばれているおっさんが出て来てホッとしました。 TJと呼ばれている、この中年男、さびれた町で「THE OLD OAK」という名のさびれたパブをやっているオヤジです。店の看板のKの文字がとれそうなのを舌打ちしながら、物干しざおかなんか持ちだして何とか修繕し、店を開けると、やってくるのは、難民とかが送り込まれてくることに不満タラタラの町のオヤジたちで、でも、黙って彼らにビールをついでいます。チラシではサラが傍に立っていますが、映画ではTJが一人で修繕していたと思います。 ボクたちの社会でも、大声で難民とか移民の人を悪くいう人がいます。三宮あたりの交差点でマイクを持ち出してがなっている人もいます。何とかやり過ごして通り過ぎようとする目の前で「そうだ、そうだ、難民なんか追い返せ!」とか、大声で叫ぶ人までいてギョッとすることもあった2026年の連休でした。「イヤなんです!そういうふうにいうのは!」 そういう人たちに遭遇して、ボクの中に湧いてくるのは、そういう感情というか、気分だけなのですが、映画のTJは、もう少し根性が備わっているようです。「連帯!」 カメラを壊されてしょげているヤラを炭鉱の労働者たちの昔の写真を飾っている奥の部屋に案内し、古いカメラとかを見せながら、恥ずかしそうに話しかけて、ボソボソ、よく聞こえないような声で、連帯ですよ、連帯! その「連帯」という言葉を目にした(だって字幕でしかわかりませんし)ボクの頭には、20代、学生だった頃から50年間、その言葉に憧れながら、結局、誰とも、その言葉を共有できなかった記憶がグルグルめぐりました。教員と生徒とか、親子とか、夫婦とか、友達とか、ちょっと違うんですよね「連帯」って。人というのは、それぞれ、一人で生きていくしかしようがないけど、何とか自分の足で立とうとしている人間同士をつなぐ言葉なんじゃないか まあ、そういう、そこはかとない夢のような思いがボクにはあるんですよね。その言葉を信じるときにだけ、信じているこっちが支えられる何かがあって、選挙で投票するとか、ボランティアで手伝うとか、寄付金を払うとかとは、ちょっと次元が違う言葉だと思い込んでいる老人を、心底揺さぶるその言葉をTJが口にしたんです。 89歳の老監督ケン・ローチが、炭鉱町のパブのオヤジにいわせた、その一言、もう、それだけで納得!でした。拍手! この映画を見た帰り道、なんだかわかったような気持ちが湧いてきました。 30数年務めた仕事をやめて、ヒマになったのをいいことに映画館に通い始めました。で、10年ほどたちました。 時々一緒に映画とか見る学生時代から50年来の友達がいます。勤め始めて30年以上映画なんて見なかったボクにケン・ローチを教えてくれたのも彼なのですが、その彼と話したことを思い出しました。「おまえ、なんで、そんなにむきにになって映画を見るの?」「いや、まあ、見ていてイヤになることがないからなあ。」「ブログとかに批評を書くというか、何か書きたいとか?」「いや、書きたいことが見つかるかなという期待はあるけど、それより、数をこなしてたら、なにかわかってくることがあるかなという感じ。」「うん、それはそうかも。質より量かもな。」 その時の会話の、ボクは、なんでこんなふうに映画館に通っているんだろうという疑問の答えのようなものが、今日、浮かんできた気がしたんですよね。 うまく言えないんですけど、映画の技法とか、撮影技術とか、今では、あんまり興味ないんです。そういうことは、まあ、もういいかなっていう感じです。ただ、ボクが70年生きていた社会ってどういう社会だったんだろう、今という時代をみなさんどう考えていらっしゃるのだろう、まあ、そんな疑問に、今、答えてくれる人はいるのかなという感じの疑問というか、興味があって・・・。「ああ、こんな人間に出会いたかったんや。こういう映画が見たかったんや!」 まあ、そういう答えですね。「あんたが見たいのはこんなんやろ!TJどう!」 そういう答えにどこかで出会えるんちゃうか。出会えたら自分が、その時、考えたり感じたりしていることがわかるときがあるんちゃうか。まあ、そういう期待ですね。ありました!拍手!監督 ケン・ローチ製作 レベッカ・オブライエン製作総指揮パスカル・コーシュトゥー グレゴワール・ソルワ バンサン・マラバル脚本 ポール・ラバーティ撮影 ロビー・ライアン美術 ファーガス・クレッグ衣装 ジョアンヌ・スレイター編集 ジョナサン・モリス音楽 ジョージ・フェントンキャスティング カーリーン・クロフォードキャストデイブ・ターナー(TJ・バランタイン)エブラ・マリ(ヤラ)クレア・ロッジャーソン(ローラ)トレバー・フォックス(チャーリー)クリス・マクグレイド2023年・113分・G・イギリス・フランス・ベルギー合作原題「The Old Oak」2026・05・03-no083・シネリーブル神戸no377追記 ところで、このブログをご覧いただいた皆様で楽天IDをお持ちの方は、まあ、なくても大丈夫かもですが、ページの一番下の、多分、楽天のイイネボタンを押してみてくださいね。ポイントがたまるんだそうです(笑)