学生のころ、欧州をひと月、旅しました。
「地球の歩き方」というガイドブックがブームで、自分で旅を手配して行くのが
流行りだしていたのです。
こつこつアルバイトで貯めたお金と奨学金がまとまったものになったのでそろそろ、
と思っていましたが、ひとりでは心もとないな、と思っていたところ、
幸い、学内の友人に一緒に行こうと誘われました。
旅の友・(ヨーロッパ編は重たいのです)「地球の歩き方」
一緒に行くUさんとTさんは旅慣れていることもあっていろいろな手配など、ほとんどお任せ。
Uさん「ユーレイルパスで移動だから。イギリスはブリティッシュレイルパスね。」
私「ゆーれい?ブリて?・・・はい、お願いします。」
Tさん「とにかく、お金かけないから。バックパック用意しといて。」
私「わかりました。」
Uさん「アエロフロートだと安いんだけど、私、韓国籍だから、
何かあると帰れなくなっちゃうの。大韓航空で行くね。
(撃墜事件の余韻がまだ冷めやらぬ頃です。)」
私「了解。」
Tさん「行きたい場所、ピックアップしておいて。」
鉄道の旅の必需品「トーマス・クック社 ヨーロッパ鉄道時刻表」
まずはロンドン・大英博物館。
大好きなシャーロック・ホームズのベイカーストリート。
ディヴィッド・ボウイを見に、マダム・タッソーの蝋人形館。
ミュージカルもできれば。
リバプールでビートルズ縁の地に。
海を渡って開放されたベルリンの壁。
小国リヒテンシュタイン。
イタリアでローマの休日、
フィレンツェでプリマヴェラ、
ベネチアでピエタとベネチアングラス。
パリでルーブル、オルセー美術館。
そして真打ヴェルサイユ宮殿。
私「こんなところです。」
Uさん「はい。アメリカ文化選択でしょ。英語、当てにしてるから。」
私「・・・。」
旅といえば、スーツケースでは?と思っていた私は「地球の歩き方」を見てみます。
巨大なリュック・・・これね。
周りには長期休暇や休学中、世界各地を旅する人がたくさんいて、
たしかに皆、こんな風なものを背負っていたっけ。
何軒かお店を見て、ピンクのラインのバックを購入。
黒のベルベットの帽子とトレンチコート。
チェックのショールにワインレッドのシャツにジーンズ。
「地球の歩き方」と「文庫版・名画の旅」を携え、二月末に出発しました。
持って行ったのは朝日新聞社文庫版 「名画の旅」
なぜか、最初に降り立ったのはソウル。
大韓航空ゆえ、チケットに半日ツアーが付いていたのです。
友人に聞き、千円だけウォンに換え、バスに。
プルコギの昼食、「ソウル歴史博物館」を廻り、お土産店に。
「円で払って。円ないの?」
半日ツアーがついていた訳がなんとなくわかりました。
バブルの終わり頃、円はとっても強かったんですね。
そうそう、こんな感じでした「プルコギ鍋」
ふらふらと道に出ようとすると、Tさんに止められます。
「絶対に、ひとりで歩かないこと。」
誘拐されるから、と言うのです。
オリンピックを開催した国でそれはないでしょう、と思いましたが
「バスの中でも現地の人、日本人のこと、あまりよく言っていなかったし。」
ここは情報通の人に従っておくことにしました。
(その一年後、学内の友人が韓国で失踪したと知った時、
私はTさんとのやり取りを鮮明に思い出したのでした。)
「祈り~失踪した同級生に~」
再び飛行機に乗り、次についたのはアメリカ。
まだ日本の航空機はロシア(ソ連)上空を飛ぶことができず、
アンカレッジ経由だったのです。
空港の外は猛吹雪。
Tさん「珈琲飲みたいな。でもドルないし。」
Uさん「すぐ発つから替えるのもね。」
出発前、三人でどの通貨を持ってゆくか話し合いました。
ドルか、現地通貨か、円か。
ユーロは、まだない頃でした。
父は「カード持っていきなさい。」と言ってくれましたが
親に頼らないのが信条の今回の旅。
周囲の友人たちがやたらカードで買い物をしているのが
あまり好ましく思えなかったこともあり、断りました。
(カードの便利さが今ひとつわかっていなかったんですね。
今はもう少し甘えておいてもよかったかなと思います。)
Uさん「ドルはアジアでは強いけど、欧州ではそうでもないんじゃない?」
Tさん「どうせ現地通貨に替えるんだしね。」
Uさん「円、いまとっても強いから私、円の現金だけにする。」
それより二年前、これもひと月アメリカに行っていて(こちらは完全に親掛かり)、
ドルのトラベラーズチェックを持ってゆき、とっても安心だったのです。
サインするのも愉しい。
そこで欧州で強いと思われるポンドのトラベラーズチェックと、円の現金、
それに、先回の旅行で残ったコインと別の友人がくれたドル紙幣も念のため
持っていきました。
私「ドル、ちょっとあるから。」
ここでこのコインが役立つとは。
三人はめでたく温かいものにありついたのでした。
次はロンドンにつきます。
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