カテゴリ:今日の抜歯再植術シリーズ
60代男性、左下5、歯根破折、咬合性外傷、咬合痛+
この方、若い頃から食いしばりがひどい、本人は仕事上のストレスだとおっしゃる。 疲労は蓄積し、何時破折するかわからない。 https://plaza.rakuten.co.jp/mabo400dc/diary/202404170000/ 僕がなぜ標準治療では抜歯せざるを歯を抜歯せずにCRで再建したり、再植したりして当面の抜歯を先送りをしているかの理由を考えてみた。 それは抜歯するとその後何か人工物で補綴するしかなく、僕個人が対応するには症例が多すぎるということだ。 当地で開業する前、勤務医をしていた時や開業した最初の頃は標準治療に専念していたように思う。勤務医をしていた頃は抜いた後のブリッジやインプラントの上部構造、義歯といった補綴物は技工士に外注して作ってもらっていた。ま、それが普通だろう。業界では歯科医師と歯科技工士は仕事上完全に分離していて、お互いに何をやっているのか正確には知らないし理解しようとも思わない。石膏模型や最近ではデジタルデータを介してのやりとりだけがコミュニケーションの全てだ。 それは規格化標準化されてはいるが細いインターフェイスで、それから外れることはお互いにできない。外れると円滑な仕事が止まってしまうからだ。 要するに仕事にならない。お互いに規格外のことをするのに費やすコミュニケーションや新規の技術の導入に時間を取られてコストに跳ね返り、身体を壊すか、飢え死にするかそれしかない。 増大したコストを負担してくれる患者はいない。患者は保険でできるのだろう?、としか考えていない。 当地で開業した最初の2年間は標準治療で歯科技工も自分でしていたが、昼間は歯医者で夜は歯科技工士をやって徹夜続きで、さすがの僕もダウンした。外注することにしたのだが、これが全然だめで、3個に1個は患者の歯に入らない適合しないで、患者の歯を削り倒してセットするというストレスフルな日々が続きこれも2年持たなかった。結局心身共に限界に達したので、削る治療を一切やめて予防歯科に徹することにした。歯科医院が潰れても仕方がないと腹を括った。治療法も金属やセラミックスより身体の負担の少ないハイブリッドインレー・クラウンを試したりしていたが、やはり型取りして作る補綴物はその構造上だめで、結局CRの物性やボンディング材の性能が良くなったのでCR充填だけになった。 義歯も手がかかるのでしたくない。要するに抜くと義歯になるので意地でも抜かないことにしたというのが抜歯・再植を始めた最初の動機だ。 再植を始めるとインプラントやブリッジはおろか義歯の症例も激減し、身体は楽になる。 再植を始めて25年経つと思うが、その間に自分自身を含めて患者も高齢化が進み、それに伴って歯のトラブルも増えてきた。歳をとっても若い頃と同じように硬いものも歯応えのあるものも食べたいからだ。 歯が欠ける、割れる、抜ける、詰め物が取れる、2次カリエスなど急増している。 そろそろ僕も体力的に対応が困難になっている。 歯牙の設計上の耐用年数は50年だそうだが、今は60、70は若造で、80代は当たり前、90、100が急速に増えている。こうなると老人施設に入り来院はできなくなり、一挙に口腔内は崩壊状態になる。 若い内にさっさと抜いて総入れ歯にするというのが現実的かもしれない。少なくとも介護現場サイドからはそういう意見が多いと思う。歯磨きなんかしてあげられない、ポリデントポチャが簡単だ。 今僕がやっている日常の仕事は自分の体力を温存しつつ、患者の口腔崩壊をどうやってくい止めるかだけだ。 標準治療では抜歯しかありえない歯をどうにかするのは患者のためというより自分のためだ。 超絶技巧のCR充填や再植はそのためのものでしかない。 義歯やその他の補綴物も患者の余命を考えながら究極の手抜きをするしかない。余分なお金は要らないし、時間もかけられない。 とはいえ、抜歯・再植歯がどの程度持つのか?というのは25年の経験上分かっている。 少なくとも1年以内にダメになることはない。 では、5年生存率は(維持率?)はどのくらいか? 再植後のトラブルとしては、再植歯牙を異物とみなす自身の免疫系の反応の「排除」「吸収」「包埋」の3つがあり、これらは重複して起こることもある。 正確に統計を取ってはいないが、ざっくりとそれぞれ5年間に5%程度ではないかと思う。 「排除」の機転は歯列固定していないと起こりやすいが、していても5%くらいは起こる。これは患者の自覚症状でもわかるが、「吸収」「包埋」は自覚症状がないことが多い。「包埋」はインプラントでいうところの骨癒着(オステオインテグレーション)なのでインプラントでは成功とされるくらいだ。インプラントと違って根本から折れることはある。「吸収」は排膿が始まると自覚症状が出始める。最後は腫れて痛みが出る。 「排除」と「吸収」を合わせて10%なので、5年生存率は90%くらいだろうか? では10年生存率はどうか?と言われると再々植もすることはあるのだが、加齢と共に身体的条件は悪くなるので、さらに10%ダウンということはない。もっと落ちると思う。 再植歯の生存率(維持率?)は5年後90%、10年後80%以下といった感じだと思う。 もちろん定期的なメンテナンスは欠かせない。 今日は抜歯窩に挿入・固定ということで今回の記事の最後になる。 包帯はデュラシールを使い、投薬4日目から7日目までに除去するのだが、エキスカベータで剥がせるように分離材として水をかけた上にデュラシールを巻く。剥がすのに苦労する人もいるかもしれないが、硬い時はエキスを加熱すればよい。柔らかくなって剥がしやすくなる。 では時系列でどうぞ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2024/04/18 11:51:34 AM
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