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テーマ:■ムービー所感■(484)
カテゴリ:アメリカ映画
19世紀末のロンドン。奇怪な容姿から“ 象人間 ”と呼ばれる21歳の青年ジョン・メリック(ハート)は、外科医フレデリック(ホプキンス)によって、見世物小屋から病院へ連れて来られる。隔離病棟で彼は、様々な人々と交流し、虐待や同情を通じて生を知っていくのだが――――。 デビュー作『イレイザーヘッド』が伝説的なカルトムービーとなった、デヴィッド・リンチの長編第2作。単純なヒューマニズムとは言いがたい、人間の残酷心理と本能を露呈した、異色のドラマ。 その奇怪な外見から、だれからも怖れられ、奇異の目で見られるジョン・メリック。 彼の内面が、本編に登場する何者よりも、穢れなく、人間らしさに溢れていることを知るにつけ、奇妙な罪悪感におそわれる。 彼をひとりの人間として扱う者、いつまでも見世物として扱い続ける者・・・・。 そう線を引いてしまえば、単純に行動をふたつに分けることができるけれど、内面まではわからない。 見世物小屋で彼を発見し、病院に入れた外科医フレデリックにあるのは、親切心だけなのか? 否、そこに名誉欲はたしかに存在している。だからこそ、彼は悩み、「自分は善人であるのか?」と妻に問いかけることになるのだ。 同じように、布切れを被った“ 象人間”を前に、その姿を早く見たいと思う、自分自身のえげつない欲求も、はっきりと自覚する。 彼を見世物として扱った人でなしと、なんら変わらない内面が、だれにだってあることを“ 象人間=ジョン・メリック ”は教えてくれるのだった。 とはいえ、フレデリックの努力と協力で、ジョンは人間らしさを取り戻し、病院内とはいえ尊厳を持って暮らし始める。 中盤、彼のところを訪れることが、ブルジョアジーたちの流行となる様は、とてもシニカル。 後を絶たない来客者との面会のなかで、ジョンの物腰がさらに気品と知性を兼ね備えていくけれど、、、心ない者は、外見とのギャップを滑稽だと笑うのだった。 人間らしく賢明であろうとすればするほど、かなしい独りよがりを続けることになるジョンが痛々しい。 ついに、病院を飛び出し、フリークとして見世物小屋へ逆戻りしてしまうジョンの哀しさは、想像するに余りある・・・。 隔離病棟の一室で、ジョンが一心に作り続けるペーパークラフトが、彼の心を象徴していた。人目をひく外見から、外出さえできないジョンは、屋根しか見えない窓の外の礼拝堂を、想像にたよって工作して過ごしている。まるで箱庭療法のように。 動物じゃない、ひとりの人間として生まれ変わるま日で、そのペーパークラフトは、少しずつ出来上がり、崩れたりしながら、見事に完成される時がやってくる。 亡き母親の代わりに、ジョンに母性を与えた、名女優の存在も忘れがたい。フレデリックの招待で生まれて初めて舞台を観た、感激したジョンの姿が印象的。 幻想的でものすごく美しい劇中劇は大好きだった。 女優役はアン・バンクロフト。バンクロフトといえば、20年前、『奇跡の人』で奇跡のケアを成し遂げたサリヴァン先生役が有名。本作では、夫で映画監督でもあるメル・ブルックスが製作総指揮に携わっている。 ジョン・ハート演じる物悲しいエレファントマンの仕草が素晴らしかった。苦悩する善意ある医者には、若きアンソニー・ホプキンス。 監督/ デヴィッド・リンチ 製作/ ジョナサン・サンガー 製作総指揮/ スチュアート・コーンフェルド メル・ブルックス 原作/ フレデリック・トリーブス アシュリー・モンダギュー 脚本/ クリストファー・デヴォア エリック・バーグレン デヴィッド・リンチ 撮影/ フレディ・フランシス 音楽/ ジョン・モリス 出演/ ジョン・ハート アンソニー・ホプキンス アン・バンクロフト (モノクロ/124分/THE ELEPHANT MAN/アメリカ=イギリス合作) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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