8月第5回‘半落ち’
8月第5回‘半落ち’良かった。本当に外れがない、横山さんの作品は。とにかく警察周辺の人々の思いや駆け引きみたいのをたっぷり興味深く読ませてくれる。人が生き抜こうとする最後の手がかりというのは何なのでしょう。それは人それぞれなのは当たり前なのだろうけど、やっぱり多いのは自分が受け継いできた‘血’なのかもしれません。確かに血を受け継ぐ‘子’のためと思えばそれを第一に自分も考えているような気がするし、自分の‘子’が生まれてきた時に感じた、それまで人生において成したいことの欲求が全て軽く思えたことも、人という生物としてそういうDNAがあるような気がしたものです。そのために生きる、生まれてきたような感覚。本作では普通と思われる‘血’の受け継ぎ方ではない(すみませんネタバレで)けれど、人としてそれは最後の砦(生を受けた証)のひとつと言えるのだと理解しました。そのためにまた生きてみようと思うことがあっても不思議ではない気がします。この作品は主役である梶の編がなく、梶が犯した事件を取り巻く周囲の人達の話ばかり。直木賞選考ではこれは悪かったような評があったけれど、周囲の人達のことを読んで行くことで、更に謎が深まり、色々想像が膨らんでいたような気がします。あぶり出すという感じで、事件を解明していくというのはこういう感じなのではとも思いました。私は悪いとは思わなかった。最近私が読んだ本だと、桜木紫乃さんの‘家族じまい’もそういう感じだったかな。‘半落ち’は映画になっていますね。私は見たことがありません。なんだろう、寺尾聰さんが主役で、なんだか私の中では寺尾さん西部警察のサングラスや黒沢映画の武士のイメージがあって、ちょっと見る気がしなかった。でも、原作を読んでしまったら映画も見たくなりました。半落ち (講談社文庫) [ 横山 秀夫 ]半落ち [ 寺尾聰 ]