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カテゴリ:中部地方(北陸・東山・東海)
ノルマといっては不敬に当たるかもしれぬけれど、無事に伊勢神宮をひと巡りできました。夜行バスからのほぼ呑まず食わずの行程にさすがに少しばかり空腹を覚えます。ここまでもは喫茶巡りを織り交ぜてきましたが、それは本来の喫茶の利用法、つまりは休息を目的としての利用という側面が大きかったかと思うのです。夕闇迫るこの時間からだともうそうは喫茶巡りも出来かねる、というわけで運よく喫茶に遭遇したなら立ち寄るということで、気持ちと身体は早々と酒場巡りを求め始めました。
ところで、この旅の秘めたる目的の一つが食にあると言うと、いつもはカレーかラーメンがありさえすれば食についてはあーだこーだとゴネたりはせぬなどと吹聴しているけれど、無論それは建前なのであります。この所、カレーやラーメンが続いてさすがに飽きつつある事をこの場でさり気なくも素直に認めておく事にします。しかし、麺類への嗜好は変わらずであり、伊勢に来たならもちろん伊勢うどんは外せぬ一品なのであります。無論、随分前に訪れた際にも食べた記憶はある。食感がムニムニと緩くて、当時は武蔵野うどん風のゴシゴシしたハード食感に目を眩まされていたぼくには、いかにも頼りなく感じられたものですが、近頃は好んでカップ麺を調理時間の二倍、時には三倍程も掛けてヘナヘナにふやかしたものを嬉々として食するようになったのだから、味覚もそうだけれど食感への志向は随時流転するものなのです。これから結婚などで他人と生活する人には是非とも己の好みを傲慢に語ってみせることは回避することを進言します。恥こそ己の処世の根底にあると確信しながらも、常に恥を引き寄せるのがぼくなのです。俺は伸びたラーメンなど食えんとか偉ぶって、後々後悔することは甚だみっとも宜しくないから、特に食においては結論は留保するべきだと思うのです。それはともかくとして、老舗然とした「ちとせ」は、この旅最初の伊勢うどんを頂くに相応しいと考えました。昼食時を逃して正解でした。先程まで混み合っていた店内から潮が引く様に人の気配は消え失せて、店を雰囲気ごとまるまると独占したかのような気分にさせてくれます。夜もある事だし諸々の誘惑は排除して当初のお目当てを所望することにしましょう。その感想は、やはり麺類は何を食べても間違いないなという事です。しかし、残念なのは下手に知識があったばかりに実物は想像を超えることがなかったことです。その麺の緩さやタレの黒さと甘じょっぱさ、知らずに食べたらどれだけ興奮したか。あと、店の方の応対が少なからず酷かった。どう酷かったかは詳らかにするつもりはないけれど、年に一度ならともかく頻繁に通い詰める気にはなれそうもありません。 さて、日も落ちて辺りは暗くなりました。さっきまでの町の賑わいは瞬く間に失われ、まるでよその町に乱暴に連れて来られたかのような印象です。しかもこれから向かおうとしている「とばっ子」は、駅からはそれなりの距離があるのです。立派だけれどほとんどの店舗がシャッターを下ろしっぱなしのように思えるアーケードの商店街を抜けるとようやく目指すお店に到着です。真新しいなかなかに貫禄のある店構えで思っていたのとは少々違っているけれど、それにはお構いなしに戸を開けて店内に進むと、何とまあ凄い混雑具合ではないか。満席だと断られそうになるのを空くまで待つからと頼み込むと、店の方はそうなると迅速に席を詰めるようお願いしてくれて、席を用意してもらえました。逸る気持ちを抑えかねるので結論から申し上げるとここはとても良い。店の方も最初はガサツに思えるが実はとても親切だし、酒の供し方も決まっている。地方の名産のくじらのタレなど品書も眺めるだけで楽しいのです。しかし、敢えてここで見逃せぬのは、ある質素で素朴な一品の肴にあると断じてしまう事にします。何となればケチなぼくがそのあまりの旨さにお替りを頼むことになるからです。その一品とはなんの事はない湯豆腐であり、大振りの半丁の豆腐にネギと大盛のかつお節を誂え、出汁を張っただけのものであります。これが何故にここまで旨いのか。店の若主人についこの豆腐は何処の品かとお尋ねしたら、いやあ、いつも仕入れている豆腐屋が休業しているから他所から仕入れてるのだよというお答えでありました。これでいつもの豆腐屋のものだとしたら如何ほどに旨いのだろう。若主人はかつお節は良いものを使って、出汁も市販のポン酢でいいからちゃんと温めておくと美味しいよ、などとサラリと語られたが、それだけのハズはなかろう。 「つばさ」は閉店しているようですし、酒場放浪記に出たとかいう「一月家」はお休みのようです。だからあっさりと宿に引き上げるかというと、そんな訳ありはしないのです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2019/04/08 08:30:10 AM
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