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カテゴリ:中部地方(北陸・東山・東海)
たかだか前橋なんていう都内からもそう遠くない町に宿泊することにしました。ケチ臭いぼくとしては日帰りできるような町に敢えて宿泊しようなんて普通は思わないはずだったのだけれど、いつの間にかこういうのもちょっと良いかなと思ったりするのは、必ずしも年を食って日和ったからというだけが理由ではないのです。前橋には数年前、ちょっと無理のあるスケジュールで旅したことがあって、その駅までの帰路に何軒かの優良オンボロ物件を目撃していたのだけれど、スケジュールが足枷になってしまいみすみす素通りするを余儀なくされたのです。あの時、急遽帰宅の予定を拭い去っておきさえすれば、前橋に対する好意は飛躍的に増していたはずだと思うと自らの計画志向が恨めしく感じられるのです。スケジュールというのは、行動力の源泉となりえるけれど、一方でその度が過ぎると自らを縛る手綱とも成り果てるようです。そんな分かり切った事をクドクドと述べてみても実りなどなさそうですが、都内から近郊の町を敢えて宿泊しながら旅する事には相応の楽しみもあるようです。一つには、最低限の緩い行程さえ設定しておけば多少の時刻の変更や天候による列車の遅延などの事態にも慌てふためく必要がないこと。途中気になる物件に遭遇しても臨機応変に対応できるのも大きなメリットです。逆に近場だから狙いが外れてもそう大きく落胆せずに済むのもいいです。何より、時間の制約から比較的自由でいられるから、忙しない行動から幾らかは解放されるような気持ちのゆとりが生まれるのが大きいのだろうと思うのです。
その反面でまた来ればいいという心の緩みが生じがちなのはデメリットともなり得ます。普段ならまずは何度となく寄り損ねている「アオキ」に回るのでしょうが、雨が降り出したから手近で済ませてしまい、その後に訪れた時には既に遅し、またも空振りしてしまったのです。暗い店の奥では女主人が店内を覗うようにするぼくを見返していたのです。 時間潰しに寄ったのが、古いホテルの経営するらしい「喫茶 こまち」です。人気のない前橋の市街地にはもう慣れっこになってしまいました。暗い階段を登った2階にあるその店の中はガラス張りで見通せますが、一人の客もおらず間もなく閉めてしまわれそうに思えましたが、すんなりと通してもらえました。窓外に町並みの見える広いガラス窓に面した席からはやはり人通りは眺められません。装飾性の希薄な店内は淡白といえばその通りなのですが、それでもどうしてだかかつて来た事のあるような感慨を与えてくれるのです。その感慨の事を懐かしさと語るのは何故か抵抗があるのですが、きっとこの先まだ少なからずの喫茶店を訪ねる程度の時間は残されているのだろうと思うけれど、そこで懐かしいという気分に囚われるのはきっとこういう何の衒いもないのっぺらぼうのようなお店なのだろうと思うのです。 それに引き換えて「パーラーレストラン モモヤ」は、例えお客さんが皆無でも感慨とは縁遠い賑わいの余韻を留めています。内装やインテリアにはリニューアルの痕跡を認める事ができるのだけれど、店の雰囲気というかその放つ空気感というのが、先の店の忘れられた何処か諦念のような切ない感情のようなものとは隔絶しているのは、必ずしも路面に接した構えだという事だけが理由とは思えぬのです。やがて地元の若いカップルと中年夫婦が姿を見せます。カップルはじっくりと品書きを吟味してからオムライスなどを注文します。旦那さんはポテトフライにビール、奥さんはプリンアラモードだったか甘味を頼んでいます。ぼくも珍しくコーヒーの掛かったソフトクリームなど頂いてしまいました。そう、こちらのお店は世界とか未来というと大袈裟だけれど開かれているように感じられるのです。先の店はきっとその逆でそのどちらが正解だとか決められやしないけれど、今のぼくには先の店の方がしっくりとするのです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2019/07/28 08:30:07 AM
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