自由人のO氏―このブログを継続してお読み頂いている方であれば、しばしば目にするであろう表記であります―もさすがにこんな時期だからかなり控え目な生活を送っているようで、大いに暇を持て余しているようです。というのも平日、休日もお構いなしに夜は遊びに出掛けていたし、休みが続くようであれば―続けるために有休もばっちり取得しています―、国内外に気の向くままに旅立っていたものです。実に羨ましい限りの人生を送っているのだけれど、さすがに今は節度を守って日々を過ごしているようです。と思っていたら、たまには息抜きも必要ということか、先般、熊谷に足を延ばしていたようです。趣味人でもある彼のことだからただ単に呑むためだけに熊谷に赴いた訳ではなさそうでありますが、ともかく夕暮れ時になって呑み始めることにしたようです。ちなみにこの記事がアップロードされるのは2度目の緊急事態宣言下―万に一つ程度で開けているかもしれませんが―でありますが、O氏の熊谷訪問は宣言前でありますことを彼の名誉のために記しておきます。長々とO氏を出汁にしましたが、ここで述べておきたいのは、O氏が熊谷で立ち寄った一軒の酒場、そこが彼にとって最強の場末酒場であったという発言であります。まさしくぼくも過去に遭遇した中でも指折りの怪しい酒場の一軒を熊谷に見出していたのであって、聞くとその酒場の店名にも覚えがあるのです。でも、自身のブログにどういうわけだか全く書き込まれていない。これは是非とも衆目の知るところとなって然るべきではなかろうかと考え、手持ちの未整理の写真を探ってみたところ、幸いにも2枚の写真が残っていたので、凄かったという意味のない記憶しか留めぬけれど、記録に書き置くことにしたのでした。
そこは、熊谷駅からもそう遠くない「ふみ」であります。駅前ではあるけれど裏路地にポツンという割には、それなりの存在感を放ってありました。もうそろそろ帰京の時刻表を気にしないといけない時間ではあったけれど、見てしまった以上は寄らずには未練を残してしまう、そう思える酒場であります。写真という媒体は明け透けなまでに風景を余すところなく切り取ってしまうものだけれど、その映し出す画は案外綺麗だったりするのですが、少なくとも実物はおよそ綺麗というものではなく、とんでもない代物だったのです。でも不思議と汚いという印象は無くて、むしろこの建物が出来上がって以来、一度たりとて整理整頓をしていまいと思わせる雑然たる様子だったのです。店主の心掛けひとつで古くても美しい景色となる場合もあるけれど、それは並大抵のことではありません。普通はこうした雑然たるものとなるのですが、それにしたってここのは度を越して凄いことになっているのです。昔は飲食店だけでなく古書店なんかにもこうしたトンデモ空間が存在していたものですが、これだけのレベルに達することは滅多なことではありません。以前書いたけれど、こうしたかなりヤバめの物件は初回はどうしたって身構えてしまうものです。何に対して警戒するかというと失礼ながら清潔感と安全性であります。前者はともかくとして後者については、長年やってきているということは問題ないという証左でもありますが、ぼくの経験ではとにかく何でもかんでも冷凍して保存するというパターンも少なくないから要注意なのです。で、清潔感と安全性を確認できてもこの雑然たる様を心地よく感じられるようになるには4、5回は通い詰める努力が要求されるものだけれど、それだけ通う余裕はなさそうだから、やはりこの酒場にとってぼくはいつまでも新参者のままとなるのです。