巣鴨駅前にささやかに取り残されている呑み屋密集地帯があって、抜け道風の小路などがそれなりの情緒ある景色を辛うじて留めています。周囲は車の往来の激しい通りに囲まれている呑み屋街というのは、そのギャップが異化効果をもたらすようで、酒場好きには堪えられない楽しみなのです。例えばよく知られたところでは三軒茶屋の三角地帯などがその典型でありますが、もっとさり気ない、例えば池袋駅西口のローターリーの向こうにある中州状のエリアなどにぼくなどはむしろ哀愁を感じるのです。中州といえば博多の中洲エリアは本当の意味での中州でありますが、余りに規模が大きくなるとどうも情緒を削がれる気がします。規模が大き過ぎる歓楽街は、呑み屋街としての風情が欠如している半面、ネオン街としての下品な煌めきが興味を掻き立ててまた別物の面白さがあるようです。
さて、巣鴨に話を戻しますが、駅前の呑み屋街の裏路地に何軒かの古い酒場が幸運にも残されている訳ですが、その一軒が「ゆたか食堂」です。いやまあ食堂とあるし、かつてぼくがお邪魔した際にはやはり食堂としての利用をなさる方が多かったように記憶するのですが、いつの間にやらセンベロ酒場としての地位を確固たるものとしていたようです。センベロ活動に余念のないセンベロねえさんの息がどの程度掛かっているのか未知なるところではありますが、一定程度の影響を及ぼしていることは間違いのない事のようです。大体において、久方振りにこちらに訪れることにしたのは偏にセンベロねえさんの報告を見てから再訪を窺っておったからなのです。混み過ぎず空き過ぎずの程よい塩梅にお客さんの入った店内は、以前とは様相を異にしてほとんどの方が酒の入るグラスなどを傾けておられます。さて、事前に入手した情報ではこちらには2種のセンベロセットがある、というかできたようです。これが想像を遥かに凌駕したすごいセットであったので、ぜひその全容を書き記したいところですが、残念なことにそれは叶わぬこととなりました。さて、同行したO氏と示し合わすまでもなく2種のセットを注文することにしました。肴は写真を参照に推測頂ければ恐らくそう違ってはいないものと思われるので割愛させていただくけれど、これがもう酒なしでも千円取られて不思議でない豪勢さでありまして、ひたすら感謝するばかりなのです。しかしそれにも増してすごいのがホッピーに添えられるのが一方がキンミヤ焼酎のボトルであり、他方はどこぞやの焼酎がジョッキに指定箇所まで並々と注いでもらえるものだから、いずれを選択するべきかは大いに迷うところなのです。ぼくの感覚としてはジョッキに焼酎の方がひたすら酔うことを目的とするのであれば理にかなっているように思われました。といった調子でいやしく呑んでいると、目覚めるとベッドの中なんてことになりかねぬので注意が必要です。