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カテゴリ:歌舞伎・伝統芸能
去年から今年にかけて、義経千本桜、何回見ただろう。
「すし屋」が仁左衛門と愛之助で2回、 「鳥居前」が壱太郎/巳之助と今回の梅枝/松禄で2回、 「法眼館・四の切」は翫雀、四代目猿之助、そして今回の菊之助で3回、 「道行初音旅」は菊之助と、今回の菊五郎で2回、プラスして来週、 松竹座で又五郎の「道行」も見るから、3回になる。 今回の「松竹大歌舞伎」東コースは、 菊之助の「四の切」の狐忠信をとても楽しみにしていたんだけど、 結果としては、 菊五郎と時蔵の「道行」に圧倒された形。 この「道行」は舞踊なので、 つまらないとどこまでもつまらない。 私がもっとも衝撃を受けたのは、昨年南座。 「三代目猿之助(現・猿翁)展」でロビーの小さなテレビから流れてきた、 体を悪くする前の三代目猿之助と芝翫。 こんなに情緒豊かで見せ場があって面白い舞踊だということを、 初めておしえてもらったように思う。 今回も、時蔵の最初の出が、「吉野山を歩いて足が痛い」から始まり、 一つひとつのやりとりに細やかな表情があって楽しい。 菊五郎の忠信に至っては、ちょっとずつ顔の向きを変えるそれだけで、 1秒1秒が絵になって、その一つ一つが見事で感激のため息をついてしまうほど。 2人とも、音楽との協調性というか、音楽にうまく乗って気持ちを表している。 そして足の踏ん張り、静御前への気配り、 ふとしたときに狐が出てしまう、そのバランスの軽妙さ! やっぱり、名優プラス年輪イコール無敵だわー。 何一つおちゃらけたことなんかやってなくたって、楽しいし、 楽しさを美しく味わうことができる。大拍手の一幕でした。 それに比べると、「四の切」菊之助の狐忠信は、いまひとつだったかも。 二役の佐藤忠信はよかったんで、とっても期待したのだけれど。 まあ、巡業で、仕掛けに難があったのを差し引いても、 全体的にもったりしていた。 こうやっていろいろ見ると、四代目猿之助は若いながらによくやったと感心。 難しい役なんだなあ、この狐忠信は、って 当たり前なことに気づかされた。 今回は義経をやった尾上右近が、品もあり口跡もはっきりして素晴らしかった。 父には早く死に別れ、母とも別れて鞍馬寺に入れられて、 自分も狐と同じく親の縁は薄かったが、 兄を親と思って孝行しようと思ったのに、逆に疎まれてしまい、 鼓になった親に孝行しようとここまでついてきたお前が不憫だって 天皇からもらった(それも「兄の頼朝を朝敵として討て!っていう 謎かけの下賜物)を 「静のことも守ってくれたお礼もあるし、(お前の親だから)お前にあげよう」 っていうところ、 思わずもらい泣きでした。 猿之助のときの藤十郎も、「意味」はわかったんだけど、 やっぱり右近の若さが義経の若さと重なって、味を出していました。 この「東コース」では菊之助と松禄が「鳥居前」と「四の切」を交互に演じる。 「鳥居前」の狐忠信は松禄だったが、こうなると「四の切」をいかに演じるか、 見たくなってきた。 松禄にとって、「千本桜」は得意の演目だという。 いろいろ見てみると、狐忠信っていうのは、立ち役がやってこそだな。 この前、襲名披露で又五郎もやったんだよね。 これ、評判よかったし、見てみたかった。 又五郎は役の解釈がちゃんとできる人だから。 そういえば、海老蔵もやった。(それも宙乗りで!) いろんな人の狐忠信を、どんどん見たくなってくる。 こうやって、古典の名作っていうのは何百年も生きてきたんだな。 そうそう、 菊五郎劇団は、下座音楽も素晴らしいので有名ですが、 この前はちょっとユニゾンがずれちゃってた「道行」も 今回は御大延寿太夫が気持ちよく歌ってました。 浄瑠璃もどれも迫力満点で、よかった~。 今、 大阪では国立文楽劇場への補助金打ち切りで問題になってます。 文楽とか浄瑠璃とか、一度廃れたらそれきりなんですよ。 だって、今の生活にはほぼ関係ない芸術だから。 浄瑠璃の太夫はみな高齢で、すぐに病気で代役になったりしてる。 それでなくても後継者問題とか、ものすごい危機にあるのに、 なんで補助金やらない、とか言うかね~、橋下さん。 それも何億じゃなくて6000万ですよ。そりゃ大阪、財政難だから大変だろうけど。 でも、「耐えがたきを耐え、忍びがたきと忍び」泣く泣く打ち切り、ならまだしも 文楽そのものの価値を貶めるようなものの言い方はとても残念。 最近新作がないけど、そして、たしかにそれは問題だけど、 でも何百年も語り継がれ、今でも上演し、ほかの芸術(=歌舞伎)にも影響し、 そこで作られた物語は、テレビドラマや映画などにもなっている。 この千本桜からしてそうだし、この前の曽根崎心中も。 忠臣蔵だってそうなんだからね。日本の財産ですよ! これだから、「春琴」みたいに、 イギリス人に文楽人形をつかって最高の演劇作られちゃうんだよね。 おのれの文化を、もっと知りましょう。 少なくとも、知らずにこき下ろすのだけは、やめましょう。 上方歌舞伎、上方落語、そして上方の文楽は、 みな歴史もあるし、本場だし、それなのに、なかなか隆盛にならない。 文楽だって、東京は人気なんですよ。 歌舞伎も、東京は歌舞伎座、新橋演舞場、その上平成中村座とか コクーンとか浅草公会堂とか明治座とか、 ヘタすると、月に5つも6つも掛かることがあるのに、 松竹座も南座も、年の半分は歌舞伎以外の出し物。 関西の皆さん、もっともっと伝統芸能を知って、親しんでくださいな。 そうしたら、 橋下さんの言うこと、スルーにならないと思うんだけどな~。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.07.11 23:28:59
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