去る10月4日、NHKスペシャル『セーフティーネット・クライシス しのびよる貧困 子どもを救えるか』が放映されました。
VTRを交えながら1時間半の生放送で行う討論番組でしたが、極めて重要な問題提起を含んでいたと思います。(ネット上でも何人もの方が反応しておられます。退職校長の toshiさんなど)
このたびは、コメントをなるべく少なめに、番組の内容を要約・再現してみます。
〔番組内容 1〕
日本社会に深く根付いてしまった貧困と格差、それが今、子どもたちに深刻な危機をもたらしている。小学校の保健室には熱があっても病院に行けない子どもや家で食事がとれずに空腹を訴える子どもが次々にやってくる。
高校では親が学費を支払うことができず、中退を余儀なくされる生徒が増えている。
(引用者注:仮に授業料全額免除の制度を利用したとしても、教科書代は個人負担、教材費や実習費、学校祭や修学旅行のための費用などは学校に支払わなければならない。)そのため、生徒自らがアルバイトをして学費を稼ぐよう教師がアドバイスしなければならないような厳しい状況がある。
OECDの調査によれば日本のこどもの7人に一人が貧困の状態にあるとされ、近年その割合はさらに上昇しつつあると警鐘を鳴らしている。
また、(・・・)親が生活に追われるあまり余裕を失い、それが子どもの心に不安を与えている例も少なくない。多くの家庭で親の力だけでは子どもを守りきれなくなっている。
NHK全国小中学校アンケート(無作為抽出により3230校)
ここ数週間満足な食事をとれていない児童。栄養のほとんどを給食だけでとっている子ども、骨折しているのに病院へ連れて行ってもらえない子ども・・・。こうした危機的な事態に対して、子どもたちの将来に強い不安を抱かざるを得ない、という声が教職員からも相次ぐ。
子育て世代の貧困、それは、ここ10年の大きな変化が背景にある。多くの人々が非正規社員として働いている。そのような家庭では企業によるセイフティーネットが充分に働いていない。親も余裕を失い「子どものしつけや心のケア」ができなくなっている。
〔事例:金沢さん(仮名)の家庭〕
夫の仕事が激減し、退社に追い込まれた⇒日雇いの仕事へ。育ち盛りの子どもたちを抱えた生活はぎりぎり。習字道具が買えないまま、親に黙っている子ども。
母親がもっとも悩んでいるのが子どもたちの医療費。怪我や病気のたびに支払う子どもたちの医療費は大きな負担。「どうしても連れて行かなければならないときは連れて行くが、そのぶん親は倒れるまで頑張らないけん状態だからなかなか連れて行けない」。
司会者
現実は子どもが子どもとして当然受けるべき「食べる、学ぶ、遊ぶ」といった保障が失われている、奪われている状態。これは世代をこえた貧困の連鎖につながり日本にとっても大きな損失になる。
私たちの世代で子どもたちの未来を閉ざしていいのか。
山井和則 厚生労働大臣政務官
「子どもの貧困」に関して子どもには何の責任もない。社会の責任で子どもの貧困を解決していかなければならない。連立合意に基づいて生活保護の母子加算も復活、月々2万6千円の子ども手当てを中学卒業まで支給する。親の経済力で子どもの人生に差がついてはならない。
神野直彦(関西学院大学教授)
国際的に見ると日本における子どもの社会保障は低いほうのグループに入っている。このたびの現金給付である「子ども手当」も実は桁外れに低い。これはあくまでも第一歩に過ぎない。子どもが心身ともに健やかに育っていくためには、そうした生活費の支援だけではなく医療、教育、さまざまな分野で体系的に保障されなければならない。
湯浅誠(反貧困ネットワーク事務局長)
VTRのような現実の背景には労働者の非正規化がある。それにつられて正規の労働者も低所得化が進んでいる。これで収入が落ちる。しかし、社会保険料の負担とかはこの間ずっと増え続けている。収入は減るは支出は増えるはで、家庭の中に余裕がなくなるのは当然。そのしわ寄せを子どもが受けている、そういう構造ではないか。
労働者の平均賃金と教育費を中心とする支出
湯浅誠
どうするかと言えば、現実の逆をやるしかない。最低賃金を引き上げること、労働条件を高めていって収入を上げることと、子ども手当、授業料無償化もそうだが住宅・医療費なども含めて支出を下げること、この両方をセットでやらなければ「子どもが大変だ」と何百回言っても現実に子どもの育ちは応援できない。
〔コメント〕
HNKスペシャル『ワーキングプア』の時から一貫していると思いますが、「事実を通してこれらの番組が実現しようとしていること」は貧困を生み出す現代日本社会の構造を浮き彫りにし、(貧困を「社会的排除」という観点でとらえ)、その解決への道を社会全体の課題として具体的に明らかにしていこう、ということだと考えます。
私自身は、このような報道姿勢を全面的に支持するものです。引き続き次回も、番組の内容をなるべく忠実に再現してみます。
(続き)
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