カルフール返品問題
およそ中国ほど、返品の難しい国は他にないかもしれません。特にアメリカ、オーストラリアなど、「返品天国」ともいうべき国で暮らしてから中国に来ると、まるで別の惑星に来たかと思うほどです。思えば日本も、返品の簡単な国ではないですが、でも日本の店員は概して、物腰が柔らかいし、客の言うことをちゃんと聞いてくれるし、仮に返品できなくとも、「まっ、いいか」とあきらめもつくものです。いやそれ以前に、日本で買うものは大変品質が高く、故障も少ないので、返品の必要に迫られることも滅多にない。ところが中国の場合、商店経営者や店員自体が、「一旦買ったものを返品してはいけない!」と固く思い込んでいるフシがある上に、自分を正当化するために客を平気で悪者にするから、始末におえない。で、その割に、不良品が結構多かったりするから、当然、返品をめぐるトラブルが絶えません。妻などは、一度不良品を返品しようとして、店員にこう言われたことがあります。「あんたみたいにねえ、こうやって、毎回毎回、返品してきたら、こちらも商売あがったりなんだよ!!!」要するに、中国のスーパーにとっては、商品の返品という行為自体、極悪非道の大罪なのでしょう。一旦出したしょんべんがひっこまないように(失礼っ!)、もとい、覆水が盆に帰らないように、一旦買ったものは、返品してはいけない・・・これが中国小売業界の掟!これぞ中国の常識(=世界の非常識)!!そんな文化のなかで、「カルフール」(家楽福)だけは一味違うと、私は思っていました。そう、フランスを本拠に、欧州、アジア、北米など世界進出を果たしている小売業界の巨人、Carrefourです。カルフールは、大連市内にすでに3店舗出店し、豊富な品揃えとリーズナブルな価格設定で、人々の支持を集めています。そして特筆すべきは、カルフールの店舗に入ると必ず目につく、次の巨大看板:「如果在購物30天内、改変了想法或発現任何質量問題、我們将給予退換」「After you purchase in Carrefour, if you change your mind or any quality problems occur within 30 days we provide you refund or exchange service.」日本語訳すると、「カルフールでは、商品のお買い上げから30日以内であれば、お客様の気が変わった場合、或いは商品に不都合があった場合には、返品・交換に応じます」うーむ、なかなか素晴らしい返品規定♪そこらの中国クソスーパーとは一味違うぜ。さすがフランス資本のカルフールだぜシルブプレ!!と、私は昨日まで思っていました。いや厳密には、今日の午前中までそう思っていました。それが甘かったんだなあ・・・今日、私はうちの奥さんにカルフールで買い物を頼まれました。そして、彼女が一週間前に買った延長コード付アダプターが使えないので、その返品も同時に頼まれました。私は、もちろん快くOKしました。中国のスーパーで返品が大変なのは知っているけど、でもあのカルフールなら大丈夫だろう、と思っていたからです。カルフール中山店の店内に入り、例の返品規定の看板を確認したあと、私は自信満々の笑みを浮かべつつ、顧客サービスセンターに向かい、そこの店員に、「このアダプターが使えないから、返品お願いね♪レシートはここにあるから・・・」。ところが、その店員は意外にも、「このアダプターのどこが悪いのか?」、「どんな場面でどんな使い方をしたのか?」など、細かいことを根掘り葉掘り聞いてきました。そこで私は、「俺がそんなこと知るわけないだろう。うちの奥さんに返品頼まれただけなんだから・・・それよりも、この店では、購入一ヶ月以内で、客の気が変わったら返品できるんだろ?だったら、別に壊れてたって壊れてなくたって、関係ないじゃん。要は俺の気が変わったんだからさ。だから、返品頼むね♪」そしたら、その店員は、そのアダプターを別の部屋に持っていって、いろいろ、テストをし始めました。そして約3分後、私のもとに戻ってきて、次の一言をはっきりと告げました。「このアダプターは、壊れてない。だから、返品には応じられない!!」えっ、ウソ!!返品できないなんて、そんなバカな・・・次の瞬間、私の胸の底から、怒りがふつふつとこみ上げてきました。この店は、ウソをついている。「購入30日以内であれば、故障の有無にかかわらず返品・交換に応じる」みたいな趣旨のことを、あんなデカデカと掲げておいて、いざ返品しようと思ったら、応じられないと・・・だったら、一体何のための返品・交換規定なの?私の表情が、いきなり鬼軍曹モードに変わりました。そして、例の店員に向かって、大声で怒鳴りました。「お前、この店の返品・交換規定を知らないのかよ?あそこの看板に、デカデカと書いてあるじゃねえか。読んでこいよ!今すぐ!!」。「故障がなかったら返品できないなんて、どこに書いてあるんだよ!お前の言うことは、理屈が通らないじゃないか?」。「俺はこの店で何回か返品してきたけど、これまで、何のトラブルもなかったんだぞ。もしお前が、頑として返品に応じないんなら、上司を出せよ。責任者を出せ!!」・・・怒りにまかせて、22歳の男性店員を、ガンガン攻め立てました。すぐ近くで、さっきまで私の苦情を聞いていた女性職員2人は、いつの間にか知らんぷり・・・その5分後、彼の上司がやってきました。いかにも中間管理職といった雰囲気の、眼鏡をかけた中年男性です。私は、「彼なら返品に応じてくれる」と信じ、ことの一切を、切々と訴えました。ところが彼は、22歳の若い店員よりも、もっと強硬でした。規則をタテにとって、「商品の不都合がなければ返品には応じられない」の一点張り!そこで私は、「商品の不都合」を立証するために、家で留守番をしている妻に電話をかけ、彼女に説明してもらいました。ですが、いつまで経ってもラチがあかない。しまいには、その上司が、「仮に不都合があったとしても、包装を一度開いてしまったものは返品できない!」という別の規則を持ち出してきました。お前らいい加減にしろ!と思いましたね。だいたい、包装を開けなくては、商品(アダプター)を使えないでしょ?我々は包装を開けて、使ってみた結果、ダメだったから返品しに来たわけで。もし包装を開けることさえかなわないのなら、最初から、返品は絶対にダメです!って言ってるようなもんじゃん?カルフール、お前もか・・・私は、ブルータスに裏切られたシーザー大帝のような悲しい気持ちになりました。結局、約30分にわたる大激論の末、「返品はできないけど、商品の交換に応じる」という線で、手を打ちました。代わりの商品を受け取った後、寝不足の身に、ドッと疲れが襲ってきました。買い物を済ませ、家に帰るバスのなかで、私はこんなことを考えていました。「どうして、あの店員たちは、あそこまで依怙地に、規則をタテにとって客と対立するのだろう?」「彼らがもし、行政職員だったのなら、まだしも納得がいく。でも、彼らはサービス業だろう?お客を喜ばせてナンボの商売だろう?それなのになぜ・・・」「今回の件では、たった72元(約1000円)のアダプターの返品を拒否するために、職員3、4人がかりで、30分も私にかかりっきりになった。その間の人件費の方が、アダプター代よりもっと高くつくんじゃないのか?」いやいや、深く考えるのはやめよう。ここは中国なのだ。私の常識では計り知れない国なのだ・・・。--------------------------------------------------------------------話は変わりますが、中国で暮らしていると、肉体的にはハードだけれど、ストレスは不思議と溜まりません。それもそのはず、毎日毎日、口論の連続で大声で怒鳴ってるから、結局、あれが最高のストレス発散になるんだろうな♪肩が凝ることも、滅多になくなりました。思えば、日本にいた時は、怒る回数こそ少なかったけど、その代わりストレスを溜め込むことが多かったです。日本の社会生活では、「言いたいことを我慢する」ことが多いから、あれが積もり積もって、ストレスになるのでしょう。私はこうやって、日々、日本語でブログを書いてレスつけたりしてるわけですが、これも結構気を遣うので、楽しいけど、ある意味、ストレスの元になります。一方、中国では、「言いたいことはその場で言う」のが基本ですから、衝突は多いけれど、その代わりストレスも少ない。そう考えると、中国生活って意外と悪くないかもしれない。毎日、安くて美味しいもの食べて、エネルギーを貯えて、それを日々、思い切り発散する・・・声は多少枯れるけど、健康や美容にいいかもしれない。一生に一度は、暮らしてみるべきかもしれませんね。中華人民共和国で。