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急制動は、時速40キロから11m(路面が濡れていたら14m)以内に停止するという課題走行である。
そんなに難しい事とは思っていなかった。実際そんなに難しい事ではないのであるが、その日は違っていた。 教官が今日は急制動をやる。メーターを見ながら時速43キロまでスピード上げて制動開始線手前でアクセル戻し前後のブレーキを掛ける。やってみ。と命令する。 外周を回って、交差点の確認。メーターをじっと眺めて43キロを待つ。ふと顔を上げると制動開始線が目の前だ。アッ遅れた。何を血迷ったのか、クラッチを一杯に握ってブレーキを掛けていた。当然エンブレが効かないので、停止線を遥かに超えてストップ。 教官が何でクラッチ握るの。と穏やかな中にも鋭い眼光で静かに言う。それから、レバーは2本指で握ったらダメだと言ったろーが、まだ直っとらんのか。今度やったら辞めてもらうで。 2回目の急制動。頭の中でレバーは4本指で、時速43キロ、クラッチは握るな。....繰り返し暗唱しながら走ると、もう目の前に制動開始線が迫っている。何が何だか分からない内、咄嗟に制動開始線手前でブレーキを掛けてしまった。しかも事もあろうかまたクラッチを握っている。絵に描いたような同じ失敗である。 教官は呆れて声も出ない。 3回目の急制動。外周を回る間、これはマズイという焦りと、もう絶対に失敗はできないというプレッシャーと、操作手順で頭の中がグチャグチャになって、もう訳が分からない状態になっている。既に冷静な判断もできない状態である。どうしようと思った時には既に制動開始線を過ぎていた。時速43キロまでは覚えているが後は記憶がない。たぶん、同じようにクラッチを握って停止線の遥か彼方で止まったのだろう。色々な事を一度に言われて頭で処理できなくなったのである。そう、完全なパニック状態に陥ったのだ。 教官が激怒し、パニックになってどうする。そんな事では二輪なんか乗れるもんか。平常心を保てんでは教習にならん。と、どやされる。 クラッチを握るこの手が悪いんか。ん。この手か。この手。手。手。クソ。この手が悪いんか。落ち込んだ。あんな簡単な急制動ができないなんて信じられない。この日ばかりは、もう辞めようかと弱気の虫が頭をもたげた。しかし、冷静になって考えてみると、教官はもう首だとは言っていない。もしかしたら、一発合格という恐ろしくプレッシャーが掛かる試験に不屈の精神で挑むための試練を与え、這い上がってこれるかどうか試しているのかも。と思った。 教習の時間が終わり、バイクを仕舞おうとしたとき、教官が来て今まで聞いたことのないような優しい声で、あんたには是非免許を取って欲しいと思っている。と初めて本音を聞かされた。やはり思っていた通りだった。アメとムチである。しかし、この教官ただ者では無い。何食わぬ顔をして人の心理を良く読み、多くは語らないが、話しにも説得力がある。私は彼の手のひらで遊ばれているようだ。 私は単純である。それからは気分も楽になり、いくら怒られても意に介さない。平気のへの字である。教官のプライドを踏みにじるきつい言葉のプレッシャーなんかに負けていては、一発合格の大勝負のプレッシャーには太刀打ちできないと確信したのである。 後日、急制動の再トライ。コーナーを回って直線に入り交差点の確認。43キロを確認。制動開始線手前でアクセルを戻す。制動開始線にフロントタイヤが乗ったと同時に視線を遠くして、リヤタイヤがロックしないようにブレーキング。エンブレも効いて停止線から1m以上手前で停止。止まる寸前にクラッチを握りエンスト防止。完璧だ。慣れてしまえばたわいもない。ブレーキを掛けたときに、体をグッと沈ますようにすれば尚よろしい。 教官から、試験では交差点の確認は必要ない。ブレーキを掛けたまま止まってエンストしても構わない。とアドバイスを受けるが、モニター生の精鋭としてはエンストなどとそんなブザマな事はできない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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