|
カテゴリ:Community
教官は雨の日も積極的に乗れという。検定の日が晴れるとは限らないので、雨の日のテクニックも必要ということだ。特に急制動などは停止距離がかなり違うのである。
その日は雨であった。しかも夜。暗いので当然昼間よりは見にくいのであるが、雨が降るとコースに周辺の光が反射してよけいに見にくい。 今日は外周を廻るのである。教官が立っているコーナーを時速30キロから始めて5キロずつ上げて、何キロまで出せるかの実験である。(そんな実験は敢えてしなくて良いと思うのだが....)教官はもし、失敗して転けて怪我しても知らんよ。と、のたまう。これはどういう意味なのだ。自己責任という事か。もし、転けて怪我をしても救急車も呼んで貰えず自分で這って病院まで行けという事なのか。こんな危ない課題は検定には無いので拒否します。と言いたかったが、モニター生の精鋭としては、後には引けないのである。 1周目30キロ。何てことはない。普通に廻れる。 2周目35キロ。これも大丈夫。 3周目40キロ。タイヤが滑りそうで怖いが、何とかクリア。 4周目45キロ。コーナーで45キロに到達していないのに突然フロントタイヤがズルッと10センチ程滑る。ワッ。思わず背中に冷や汗が流れる。こりゃ限界だわ。命あっての教習だ。もう止めようと教官に許しを請うが、教官はまだやれという。鬼だ。 5周目。もう死んでやる。やけくそでコーナーに突っ込むと、今度はズルズルッと20センチぐらいフロントがもって行かれる。ヤッタ。オダブツだ。と思った瞬間、奇跡的にクリア出来ていた。ここで教官のお許しが出た。雨の日のコーナーは危ないだろが。と、のたまう。危ないのはコーナーではなくてあんたの命令だろうが。と言ってやりたかったが、優等生は、ハイ。良く分かりました。と返事をするのである。 教官 よう転けんかったなあ。あんな路面で。 私 まぐれですよ。 教官 見えとったの。 私 ヘッ。何が。 教官 わからんのか。最初と路面が違うだろが。 路面が違う?雨は教習前から降っており、濡れ方は同じ。それとも光の加減か。どういう事だ。さっぱりわからん。 教官 バイクから降りて路面を見てみ。 路面を歩いて見る。穴のようなものも無いし、コーナーを行ったり来たりするが何も変わった所は見あたらない。かなり長い間、路面を見ながら考えるが、これはと言う解答が見つからない。何でこの寒い雨の中、カッパを着てナゾナゾをしないといけないのだ。教官は知らん顔をしている。 私 何も変わった所はありませんが。何の事かわかりませんけど。 教官 まだわからんのか。路面をよく見ろ。 今度は、雨の中、濡れた路面に這いつくばって本格的な鑑識作業に入る。すると、コーナーの真ん中辺りの少しイン側に牛乳瓶の底程の径に丸めた錆びた針金を発見。もしやと思い、手に取ってこれですか。と、尋ねる。 教官 やっとわかったか。コーナーを曲がるときに異物を見逃してどうする。小さな石ころでもタイヤが乗ったらバイクは吹っ飛ぶで。さっき、もし、これを踏んどったら病院行きになっとるで。 教官は私が外周を廻っている間に、ポケットからそっと出して放り投げたのだ。砂かけばばあも真っ青になるような意地の悪さだ。鷹の目じゃないとそんな小さな物まで見えません。私の目は猛禽類ではないのだ。危ないと言う事は説明すればわかる。生身の体で試さなくても良いではないか。と、言いたい気持ちをグッと抑えて、心の中だけで叫んだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[Community] カテゴリの最新記事
|