オバマのカイロ大学演説
今日のCNNは一日オバマのカイロ大学演説です。それもそのはず、オバマの今回の中東・ヨーロッパ外遊の大本命の仕事だから。今回の目的は、中東イスラム諸国との和平の旅。もちろん、今回一回くらい来たって別に変わるわけじゃないが、いわば、地ならしにきた。ブッシュだってエジプトに来たさ、って言ってた人もいるけれど、それとは多分話にならないくらい違うはず。久しぶりに、1時間かかる、大演説。選挙キャンペーン時代のオバマに近い印象を受けた。そう、たとえて言うなら、民主党指名受諾演説のような。あの時、当ブログでも、民主党員だけに受ける演説じゃない、民主党、共和党、無党派、すべてアメリカ国民全体を纏め上げようとする、あの演説の仕方、なのです。但し、対象は違う。今回は、アメリカと中東イスラム諸国とのギャップを埋めるのが目的。でも、手法はかなり同じ。オバマは、意見が違う相手と話す場合、上っ面の大義とか、目的とかいわない。そのもう一段掘り下げた、人類共通の願いの部分にまで掘り下げる。そうして、たとえ意見は違っても、その本来達成したい目的は同じ、だから協力しよう、協力できる部分を見つけよう、どうやったら協力できる分野が見つかるか一緒に考えよう、という方向にもって行こうとする。演説でもいっていたけれど、アメリカと中東イスラム諸国との間には大きな相違点がある。宗教も違えば、イラン、イスラエル・パレスチナ問題の立場も違う、民主主義体制や、女性の地位なども。そもそも、アメリカは、中東諸国とまともにパートナーと見る気があるのか?そこで、オバマは、アメリカは中東イスラムと協力体制を作るための地ならしをしに来た。別に特定の細かい政策について語りに来たわけではない。まず、演説は両者の間に大きな相違点がある、と率直に認めるところから始まる。次に、ここがミソだが、中東イスラムの人類の歴史への貢献について語る。要は、尊敬すべき相手である、と認めたわけだ。実際、ヨーロッパが中世の頃、全然科学進歩をしていなかった頃、数学を中心に物理学や天文学、航海術を発達させて、ヨーロッパや中国に伝わったという。また、アメリカへの好意にも触れる。最初にアメリカを国家として承認してくれたのは、モロッコであると。さらには、アメリカにはたくさんのイスラム教徒がいて、アメリカではイスラム教徒に信仰の自由を与え、それを阻むものを罰する、とさりげなく、アメリカはイスラム教を尊重するとメッセージを発する。で、ここでオバマにしかいえない点をいう。バラク・「フセイン」・オバマという名のものが大統領にもなれる。でも、大して特別じゃないよ、と付け加える(いやいや、ご謙遜を。)と思わせておいて、実はアメリカのよさを売っている。そうやってイスラム教徒にオバマの尊重する気持ちを伝えたうえで、相手を尊重しつつ、協力していこうと説得モードに切り替わる。「アメリカはイスラムと戦争しないよ。」とまず宣言する。で、イスラエル・パレスチナ問題に触れる。ここで、アメリカと中東イスラム諸国との間で一致できる点を語る。ちなみに、ここの部分が私の一番のお気に入りだ。But if we see this conflict only from one side or the other, then we will be blind to the truth: The only resolution is for the aspirations of both sides to be met through two states, where Israelis and Palestinians each live in peace and security.(しかし、この(イスラエル・パレスチナ)紛争を一方の見方でしか見ないと、真実は見えない。唯一の解決策は、双方の願いを満たすこと、即ち双方が平和に安全に暮らせる、二つの国家を作ることである。)双方にそれ相応の言い分というものがある、と素直に認めた。今まで、特にブッシュ政権が認めようともしなかった、イスラム側の権利を認めた。しかし、暴力はいけない、という。これも、また反対しにくい論法だ。アメリカの奴隷たちは、暴力で今日に至る平等を勝ち取ったわけではない。平和裏に求めた結果だ。(いやー、それがいえるのは、60年代のキング牧師の頃だ。しかも、無抵抗・非暴力・法律違反だが。その前の奴隷解放のときは、北部が奴隷制度で労働力をタダにしているのをねたましく思っただけに過ぎない)他にも、民主主義の触れ方もいい。ブッシュ政権のような、アメリカの価値観を押し売りしまくるような、押し付けがましさがない。そもそもアメリカの方が歴史も浅けりゃ、文明も浅いのに、大先輩に何をほざく?と思われるだけだったのだが。But I do have an unyielding belief that all people yearn for certain things: the ability to speak your mind and have a say in how you are governed; confidence in the rule of law and the equal administration of justice; government that is transparent and doesn't steal from the people; the freedom to live as you choose. These are not just American ideas; they are human rights. And that is why we will support them everywhere.(自分の意見をいうこと、政府に対して意見を言えること、信頼できる法体制があること、正義が守られること、人民を搾取しない、透明性の高い政府があること、生き方を選択できること、こうしたことは、すべての人々が求めることではないだろうか?これは別にアメリカ特有の考えではなく、普遍的な人権だ。それがゆえに、世界中で支持するのである。)で、そうした政府が結局一番安定しているから、民主主義はいいんだ、という売り方をしている。他にも女性の社会的地位や宗教の違いなどにも触れているのだが、似たようなタッチなので、ここでは省略する。最後に、コーラン、タルムート、聖書(イスラム、ユダヤ教、キリスト教は同じ経典を基にしているという考えがあるから)の引用で締めくくっているのも、にくい。だが、イスラムの人たちも、オバマの演説だけで満足はしないだろう。その後のアメリカの動きで判断するだろう。この演説で盛り上げた人々の期待を裏切らないように、がんばってほしいもの。