言語学を超えて（ソシュール記号学の新解釈）

私の言語学に於ける斜め上の発想の出発点は「ソシュールの一般言語学講義」の中にある「言語には正の項が無く、差異しか無い」と言う命題であるが、言語学の従来の解釈とは全く違う方向に向かい、音素の離散性を再解釈し記号の恣意性を離散性で置き換える事で新しい言語理論の構築を独りで進めて来た。

独りで研究と言うのは全くそうで、私の周りには昔も今も、私の言語理論或いは言語哲学を理解出来る人がいない。

唯一、私のブログの常連で非常に興味を示してくれた「ともちゃん」も、私の理論を完全に理解している訳ではない。

私の理論は言語学や哲学の枠組みから完全に外れているからだと思う。

自分の立ち位置が理解出来たからだと思うが、最近、特に言語学関連、更に哲学や意識の科学を扱う動画を視聴するのが苦痛になった。

人間に固有の主観的な視点を通して物事を捉える事に何の疑問を持たない人を見るとストレスが溜まる。

更に、それこそが最重要であるかの様な解説を聞くと落ち込む。

私にとっての幸運は、高校レベルの数学が出来なかった事にあると思う。

例えば微分積分は、今でも何をどうするのか全く知らない。

最近は、言語の胚となる記号に備わっている時間軸に関する考察をやり過ぎた事で、正と負のベクトル軸が定まらなくなり、簡単な二桁の暗算も出来なくなってしまった。

しかし、このおかげで、数学を過信する事なく言語に関する考察をする事が出来、逆に、数学の基本となる「離散的な自然数」と言うのは、言語の胚となる記号によって可能になるという結論に達した。

数学が出来なかったのは、大学受験ではハンデとなったが、経済学部に通ったのは幸運だったと思う。

大学では「資本論」のマルクス経済学と出会うが、ここで「経済に於ける価値」と言う概念に出会う。

当時、私が入学した横浜国立大学では「マル経」と数学を多用する近代経済学、略して「近経」と言う大きな二つの学派があったが、私は「マル経」の岸本重陳ゼミに入った。

大学卒業後に就職した会社を辞めて、フランスに留学すると先生に報告に行った時、私にとっては「価値」を扱う経済学と、同じく「価値」を扱う言語学には共通点があると先生に説明した覚えがある。

この時、何らかの形でソシュールの記号と価値について既に知っていたと思うが、よく覚えていない。

その後、フランスの大学で、複数の人文学部に共通する講義として言語学概論の授業を自由聴講したのだが、ソシュールの「言語には正の項が無く、差異しか無い」と言う命題が教えられているにも関わらず、その応用範囲が全く無いことに疑問を持って、それを自分の研究テーマにする事にした。

ここで私は大きな方向転換をする。

それは「言語には差異しか無い」と言う命題をソシュールの記号のシニフィアンつまり言語の形の側面の考察を通して検証しようと思った。

実は最近になって初めて従来の言語学では、この命題は記号のシニフィエつまり言語の意味の側面のみに適用される事を知った。

言語（この場合、音声言語に限定）の形（記号のシニフィアン）は、音韻体系を構成する種類と数が限定される音素と言う言語の最小単位によって形成されると言う認識が一般的であり、ソシュールの記号の恣意性の説明でも、音素を文字と言う視覚的な単位で記述したものをシニフィアンとして扱っている。

私が最初に行った、音声言語の音韻体系を構成する音素の弁別（二つの違う音素がある事を証明）する記憶操作であるミニマルペアの研究において、何故、我々は、同じ言語の二つの単語を聴覚的な記憶から其々に思い出しながら、二つを前後に順序よく並べる事ができるのだろうかと疑問に思った。

これが可能になる為には、我々の言語的な認識の世界で、物理的な時間軸に平行する時間軸が確立されている必要があるのだが、認知システムの一部である聴覚的な知覚は、一定方向に直線的に流れるものであり、それを単純に切り取っただけでは、我々が無意識に認識している時間軸は存在しないと考えた。

この段階で既に、物理化学的な時間軸、生物認知的な時間軸、そして言語意味的な時間軸の三層構造を無意識のうちに想定していた事になる。

そして、生物認知的な時空間と言語意味的な時間軸の推移を説明するの為に、私は言語学で既に使われていた「音素の離散性」と言う概念を持ち込む事にした。

そして、離散性と言うのが実は数学的な概念である事も初めて知った。

数学では離散の反対は連続であるが、それは正しいと認識しつつも離散の反対は混沌であると考え始めた。

今では、混沌と言うのは連続性を持つ無数の波動の蓄積によって構成される自己同一性を実現出来ない存在であると言う定義。

もし私が数学が得意な高校生だったら、ここまで説明した様な論理展開をする事はなかったと思う。

それと同時に、数学が得意な人に、私の論理展開を理解出来るかと疑問にも思う。

チョムスキーの言語理論を否定したミンスキー博士なら分かってくれたかもしれないと思うが、既に故人であるのが残念。

今は、他人に理解してもらう事よりも、自分が30年間、無意識に辿った思考の流れを理解する事に専念した方がいいと思った。