言語学を超えて（ソシュール記号学の新解釈）

Closer To Truth：Thalia Wheatley - Big Questions in Free Will

西洋哲学で議論される「自由意志の有無」を、脳科学で解明しようとするのは、私は無理があると思う。

どちらにせよ、自由意志の前に認知主体としての自己意志の誕生に関しては全く不問である。

私は、脳科学ではなく、記憶科学によって、この問題は解決されると考えている。

物理学では、原子や分子或いは素粒子という単位、脳科学では脳細胞という単位、言語学では音素という単位が使われているが、記憶科学では、これらの単位が離散的、つまり互いの差異によってのみ成立する事を保証する動的メカニズムである「離散分裂（再を研究する）融合更新循環サイクル」を研究する。

現在の科学では、還元主義と言う「自分の主観からなる自己意識を研究対象に投影して、その対象の概念を定義する」と言う手法が主流である。

これは、近代の科学を牽引して来た手法であるが、研究者の勝手な思い込みが思いっきり反映されると言う弊害がある為、自ずと限界があると私は考えている。

私は、言語のメカニズムの研究を始め、宇宙や生命の起源の研究に於いて、従来の科学で主流である還元主義を取らず、言語学者ソシュールの「言語には正の項が無く、差異しか無い」と言う命題にインスピレーションを受けて、私が「離散主義」と命名した全く新しい研究対象の認識手法を実践している。

研究の当初は、離散主義と言う造語もせずに、ひたすらに「差異によってのみ確立される世界」を言語を使って定義する事だけを考えていた。

「差異」によって成立する世界には、人間の主観によって定義された「単位」と言う概念は存在しない。

私の場合「音素と言う単位」を否定する事から始まった。

私が「差異」のみによって記述する世界は、還元主義的に分割可能な単位を定義しながらする記述とは全く違った様相を呈す。

素粒子論と言うのは還元主義の最たるものであるし、脳科学に於ける最小単位は脳細胞であり、それらによってコンピュータの様に構成されるネットワークの存在を想定している。

互いの差異によって存在が保証されると言う場合、最低、二つのものがある事が大前提になる。

この二つのものが、互いに差異によって違ったアイデンティティーを持てる為には、二つが互いに同じ部分を共有している必要がある。

私は、この共通部分が、二つのものを引きつける力になっていると考えた。

私に、この様な発想を与えてくれたのは、私が一番最初に取り組んだ音声言語の音韻体系を構成する音素同士を弁別する聴覚的な記憶操作であるミニマルペアの考察を通してであり、ここで私は、弁別される音素同士が「同じだけど違う、でも違うけど同じ」という一見、矛盾した関係を持っていると考えた。

もし、あなたが、離散主義を実践したいのであれば、音声言語の音素を弁別する為に使われるミニマルペアと言う聴覚的な記憶操作の考察を勧める。

音素というのは単位ではなく、記号のシニフィアンの側面を構成する連続して流れる聴覚によって成立する価値体系の特定の座標である事を理解して欲しい。

これが、理解出来なかったら、離散主義を理解する事は、とても困難だと思う。

ただ、音素を聴覚で捉えられない聾者に関しては、特定のの手話サインが、連続して流れる視覚によって成立する価値体系の特定の座標である事を理解すると言う方法もある。

どちらも理解出来れば、鬼に金棒である。

記号のシニフィアンの側面に於いて聴覚発声チャンネルに特化して出来た音声言語と視覚身振り言語に特化した手話は、離散的に分節される時間軸を共通要素として持っているが、視覚の場合、視野と言う三次元（二次元でも可）に映る手話をする人の身体が既に人間に共通して分節していると言う違いがあり、この違いが、手話を「意味先行型の言語」とする。

つまり、話者と話し相手が互いが知っているものを、形を真似る事によって喚起する事に成功すれば、コミュニケーションは成立するのである。

これは、音素の連鎖では、具体的な事象の喚起に非常に大きな制限のある音声言語とは対照的である。

手話言語学を少しでも齧るとソシュールの記号学で出てくる記号の恣意性と言うのは音声言語に限定されたもであると理解出来る。

手話に適用できないと判断した段階で、もし人間の言語全般に当てはまる命題を考えているなら、別の説明を探す必要が出てくるが、今の言語学では放置されたままである。

ここまでの論理展開を追うことが出来れば、離散主義を実践するための準備段階を通過したと言えると思う。

でも、これからの論理展開が、かなりやばいと思う。

誰か、挑戦したい人、いませんか？

また、別の機会で、離散主義は、記憶と言う形で発現する意識／自己同一性の生成と維持、そして進化を研究する為の手法である事を説明したいと思う。