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カテゴリ:捕鯨・マグロ
【土・日曜日に書く】ロンドン支局長・木村正人 反捕鯨モンスターの影
2010.3.21 03:26サンケイ ≪狙われた黒いダイヤ≫ カタール・ドーハで開かれているワシントン条約締約国会議はこの18日の第1委員会で、大西洋・地中海産クロマグロを絶滅の恐れのある種(付属書1)に掲載して国際商業取引を原則禁止にするモナコ提案と、来年5月まで猶予期間を設ける欧州連合(EU)の修正案が採決に付されて、予想以上の大差で否決された。 最終日の25日の全体会合でも第1委員会の結論が踏襲される見通しだ。 「黒いダイヤ」と呼ばれるクロマグロを巻き網漁で捕らえ、いけすで大量にエサを与え脂肪分を増やして出荷する畜養が1990年代後半から地中海沿岸国で産業化した。畜養クロマグロのトロが日本市場で大ヒットしたからだ。 乱獲は止まらず、漁獲量を規制する大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)の推定では、大西洋・地中海に生息するクロマグロ(親魚)は74年の約30万トンをピークに現在は8万トン弱に減少。 ICCATは昨年11月、クロマグロの総漁獲枠を4割削減すると決めたが、モナコは環境団体グリーンピース、世界自然保護基金(WWF)と連携して、「大西洋・地中海産クロマグロの減り方は同条約の絶滅危惧(きぐ)種に当てはまる」と取引禁止を提案した。 米軍普天間飛行場の移設問題で日本との間がぎくしゃくしている米国がモナコ提案を支持し、地中海沿岸の漁業国が反対すると読んでいたEUが修正案提出でまとまるなど、世界で漁獲・養殖されるクロマグロの7~8割を消費する日本に厳しい風が吹き付けた。 72年に、ストックホルムで開かれた第1回国連人間環境会議で商業捕鯨の10年間禁止勧告が採択された。 その10年後、国際捕鯨委員会(IWC)は商業捕鯨モラトリアム(一時中止)を決議し、日本は決定を受け入れて、南氷洋での調査捕鯨を行うだけとなった。 続いて、大西洋・地中海産クロマグロの取引禁止は92年の同条約締約国会議で協議されたが、この時は米国が反対に回って、提案国のスウェーデンが取り下げた。 ≪反捕鯨の集金力低下≫ 反捕鯨の取材を機に環境運動を追跡している『動物保護運動の虚像』の著者、梅崎義人氏は「米環境団体オーデュボン協会の海洋資源部長が94年の米月刊誌に『われわれはクジラの次のキャンペーン用動物を探していた。思いついたのがクロマグロだ。大きくて力強く、魚の中では一番速く泳ぐ。身近な存在だしカリスマ性もある』と発言している」と指摘する。 16年の歳月を経て、クロマグロ保護を訴えるグリーンピースの主張も、これとそっくりだった。 広報対策に通じる環境団体はジャーナリストに情報を提供、テレビなどを通じて国際世論に訴え、寄付金を集める。 英国グリーンピースの年次報告をみると、日本の調査捕鯨に関する寄付は2008年で3件約2万ポンド(270万円)にとどまった。 気候変動計10万2千ポンド(1390万円)、森林保護34万7千ポンド(4740万円)に比べると、反捕鯨キャンペーンによる集金力の低下は一目瞭然だ。 ≪ポリティカル・フィッシュ≫ 第82回米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞に和歌山県太地町のイルカ漁を告発した米映画「ザ・コーヴ」(ルイ・シホヨス監督)が選ばれた。 梅崎氏は「環境問題というより政治そのもの。クロマグロはポリティカル・フィッシュにされた。日本はこれまで食文化・習慣を守るため、と自分の立場だけを主張することが多かった。地球の食糧問題を考えると、海洋生物の持続的利用しか人類の生き残る道はないなど大きな視点で訴えることが重要」と語る。 今回は米国とEUを敵に回したが、漁業資源は国際漁業管理機関で管理すべきだという日本の当たり前の主張は漁業に頼る途上国に浸透。 IWCの捕鯨支持国三十数カ国を基礎票に見立てると支持は倍以上にも広がった。 日本の大勝利だったが、日本でできる漁業管理をもっと徹底するなど事前に打つ手はあったはずだ。国際プレーヤーの一つ、EUへの対応など教訓も残した。 慶応大法科大学院の庄司克宏教授は「EUは外交と合意形成を通じた多国間主義で国際組織や国際会議をリードしようとしている。気候変動、環境規制、死刑廃止などでEU内の規範が形成されると世界にも適用されるべきだという一方的な確信がある」と分析、“単独規範主義”と命名している。 加盟27カ国に周辺国を加えると、国際会議では大きな影響力を持つ。同教授は「日本・EU規範パートナーシップ」を提案し、規範作りに関しEUと事前調整して情報収集する重要性を指摘している。(きむら まさと) ※「EU内の規範が形成されると世界にも適用されるべきだという一方的な確信がある」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.03.22 21:52:12
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