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カテゴリ:映画
天声人語で取り上げられる映画監督はあまりいないので、目に留まりました。 降旗康男監督、敗者の美学貫いた映画人生 「人間の美しさ、琴線に触れる部分は、負けた人、失敗した人の生き方の中にしか見いだせないのではないか。成功者に興味はない」 20日に世を去った降旗康男監督は、そんな敗者の美学を描き続けた人だった。射撃選手としての重圧から家族を失った刑事(「駅 STATION」)、組合運動の筋を通して退社した男(「居酒屋兆治」)、廃線間近のローカル線の駅長(「鉄道員」)。不器用だが真っすぐな男を高倉健が演じ、高倉の後期の代表作となったが、それは降旗の資質でもあった。 撮影現場では静かな人だった。コンビを組んだ撮影の木村大作が大声で現場を取り仕切るのとは対照的で、目立たず、言葉少なに俳優の演技をじっと見ている。俳優たちには「そのまま、その人として、立っていてくれたらいいんです。映画は映るんです。映り方なんです」と語り、あれこれと演技指導はしない。それなのに完成した映画はどれも降旗の色に染まっていた。真贋(しんがん)を見抜く冷徹なまなざしが降旗美学の根底にあった。 (古賀重樹) 待ちの人、最後「頼むね」と 映画監督・降旗康男さんを悼む 2019年5月31日 朝日新聞 映画監督の降旗康男さんが20日、84歳で亡くなった。高倉健さんが主演し、降旗さんの代表作と言われる「駅 STATION」「鉄道員(ぽっぽや)」「ホタル」などで撮影監督を務めた木村大作さん(79)が、盟友との思い出を語った。 ◇ 降(ふる)さんとは16本やっているよ。健さんも言ったように降さんは寡黙な監督。40年近い付き合いで怒鳴っている姿を見たこともない。かたや俺は怒鳴っているので有名なカメラマン。だけど、初めての「駅 STATION」から馬が合ったんだ。性格は違うけど、進む映画の道は同じだと感じてくれたんだろうね。 現場で静かに見ている代わりに、俺みたいながんがん行くスタッフに好きなだけやらせる。頭が切れる人だから、現場で得になることを分かっている。「待ち」の人というかな。天気が悪くて撮れないと言うと、「そうでしたか。帰りますか」だけ。そんな監督、いないよ。そんな降さんとやりたいと言うのは決まって健さん。そのくらい健さんがほれ込んでいた。 俺が監督した「劔岳(つるぎだけ) 点の記」や「春を背負って」、「散り椿(つばき)」は全部、一緒に現像所で見た。でも、いつも見た作品の話はせずに、飲みに行って宴会だよ。感想は直接聞いたことがないけど、「点の記」について降さんが言っていたと伝え聞いたのは、「大ちゃんは、山を登って神々しいものに出会いたかったんだろうね」。うなったね。だって、俺はそれだけのために「点の記」を撮ったようなものだから。 最後に会ったのは2月、渋谷の喫茶店だった。コーヒーを飲みながら、降さんの新しい企画について話したんだ。戦後、昭和の物語。だいぶ進んでいるようで、「大ちゃん、頼むね」と。84歳と言っても、体調も悪そうじゃないし、歩き方も俺よりしっかりしていた。でも、亡くなった今、考えてみると、「頼むね」の声が少し切実だった。もう自分の最期を意識していたのかもしれないね。 俺は、自分の作品よりも何よりも降さんが第一。降さんから「頼む」と言われたんだったら、自分が監督する作品もそっちのけよ。 健さんも83歳で亡くなった。俺も79歳だから、先行きねえなあと思うけどさ、降さんから「次だ」とせかされているように感じるよ。次の企画を進めないとなって。映画人ってのは、撮ってないとダメなんだ。(聞き手・小峰健二)
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Last updated
2019.06.05 15:00:08
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