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記事 また改修!「F-15」が現役で働き続けるワケ 新型機へのシフトが進まぬ事情とは? 東洋経済オンライン 東洋経済オンライン 井上 孝司 F-15は1970年代に開発された機体だがアップグレード改修により現在も最前線で活躍している。 クルマでもパソコンでも家電製品でもそうだが、使い続けて古くなってきたときに、「このまま、あるいは修理して使い続ける」「新しいものに買い換える」という選択を迫られる。戦闘機、戦車、艦艇などといった軍隊の装備品についても、事情は同じだ。 戦闘機をめぐってちょうどタイムリーなニュースがひとつあったので、それを引き合いに出しつつ、既存の装備品を改修して延命することの損得勘定についてまとめてみる。「戦闘機」と聞くと一般のビジネスパーソンにとっては縁遠いため、「自分には関係のない話」と感じるかもしれないが、日本の防衛予算をウォッチするうえで欠かせない基礎知識ともいえるので、ぜひご一読願いたい。 アップグレード機「F-15C 2040」とは? 「F-35AライトニングII」は、ロッキード・マーティン社が中心となって開発を進めてきた単発単座のステルス戦闘機だ。 米空軍は8月、同機を装備する最初の部隊が、「最低限の任務を行える体制を達成した」と発表した。 いよいよ戦闘機の世代交代に弾みがついたといえる。 ところが、その一方でボーイング社は、 2015年9月に現行主力戦闘機のひとつ、F-15Cイーグルを対象とする、「F-15C 2040」なるアップグレード改修を提案している。 F-15イーグルは、マクドネルダグラス社(現ボーイング)が1970年代に開発した戦闘機で、空中戦では無類の強さを誇る。 航空自衛隊でも導入しているので馴染み深い機体だ。 「F-15C 2040」は、そのF-15に対して2040年頃まで運用を継続できる能力を持たせましょうというもの。 主な改造内容は、 ○ 燃料の搭載量を増やす、 ○ 空対空ミサイルの搭載数を8発から16発に倍増する、 ○ コンピュータを新型化して情報処理能力を高める、 ○ データ通信の能力を強化する、 といったところ。 今のF-15Cで見劣りし始めている能力を改善する狙いがある。 そして2016年9月16日に、 CNNが「米空軍、F15機を全面改修 F22の調達誤算で」と報じた。 イーグルのアップグレード改修にゴーサインが出たわけだ。 軍事専門誌「インターナショナル・ディフェンス・レビュー」の2016年9月号でも、この件について「予算がついた」と報じていた。 米空軍はもともと、1980年代から開発を進めていたステルス戦闘機、ロッキード・マーティン社のF-22ラプターでF-15イーグルを置き換えるつもりだった。 ところが、予算の問題からF-22の調達が187機で打ち切られたために、数が足りない。 その後、もっと安価で多用途性に優れた新型ステルス戦闘機として冒頭のF-35の開発を進めているのだが、スケジュールが遅れている。 一方では、ロシアとの関係がギクシャクしたり、中国の軍事力近代化が急速に進んできたりといった状況があり、ここで米空軍の戦闘機が見劣りする状況になるのは避けたい。 そこで、手持ちのF-15イーグルの能力を向上させることで延命を図ろうという話になった。 1970年代の機体がいまでも現役なワケ ここで不思議に感じるかもしれない。2010年代に開発した新型の機体(F-35)と1970年代の機体(F-15イーグル)は、比較にならないほど新造機のほうが優れているのではないか、と。 しかし、 現代の戦闘機は、飛行性能の面では行き着くところまで行き着いたところがある。 たとえば、旋回性能をこれ以上高めても、パイロットの身体がついてこられない。 また、飛行性能向上のためにかかるコストが、それによって得られるメリットに見合わなくなってきている。 そのため、戦闘機のアップグレード改修といっても、 飛行性能の向上につながるメニューはまず出てこない。 ○ レーダーを新型化して探知能力の強化を図る、 ○ 搭載するミサイルを新型化して攻撃能力を強化する、 ○ 敵のミサイルから身を護れるように妨害用の電子戦装置を搭載あるいは強化する。 そんな話ばかりだ。 いまどきの戦闘機で大事なのは、 ○ まず「頭脳」(コンピュータ)、 ○ 「眼」(レーダーなどの探知装置)、 ○ 「耳」(通信機能) なのだ。 ○ 「腕力」(武器)も改良するが、 ○ 「脚力」(飛行性能)は今のままでもよいと考えられている。 これは、欧米諸国でも航空自衛隊でも同じだ。 そのことが、アップグレード改修ビジネスの様態に大きな影響を与えている。 主契約社(プライム)と副契約社(サブコントラクター)の立場が逆転する現象が起きているのだ。 軍用機のアップグレード改修では、 対象となる機体を製造したメーカーが、アップグレード改修でもプライムを務めることが多い。 F-15イーグルの場合、アメリカならボーイング社、日本なら三菱重工である。 実際に改修を行い、最終的な責任を負うのは主契約社だが、主契約社がすべての改修を行えるわけではない。 改修に際して導入する機器やコンポーネントの多くは、それを専門とする副契約社の担当である。 そして先に述べたように、昨今の軍用機、特に戦闘機のアップグレード改修では、 搭載する電子機器や武器の換装・追加が主体だ。 F-15C 2040の場合、 レーダーはレイセオン社、 敵のレーダーを妨害する電子戦装置はBAEシステムズ社、 搭載するミサイルはレイセオン社が担当する。 機体メーカーが主契約社でも、実質的な主役は兵装や電子機器を手掛ける副契約社である、 と極言することもできる。 機体メーカーと搭載機器のメーカーが競合 韓国空軍は、ロッキード・マーティン社製のF-16ファイティングファルコン戦闘機を導入して、「KF-16」という名前をつけて使っている。これを対象とするアップグレード改修の話が出たときに、F-16の製造元であるロッキード・マーティン社をさしおいて2012年に受注に成功したのは、BAEシステムズ社だった。 搭載機器メーカーが本家本元の機体メーカーを押しのけて受注に持ち込めたこと自体、「搭載機器が主役」という実情を如実に示したものといえる。 その後、韓国空軍の件は契約額などをめぐる対立から話がこわれて仕切り直しとなり、2015年にロッキード・マーティン社が受注を決めた。だが、使用する機器がすべて同社の製品というわけではない。目立つ大物であるレーダーからして、ライバル社でもあるノースロップ・グラマン社の製品だ。 機体メーカーと搭載機器のメーカーが競合した話は他にもある。 イスラエルのIAI(Israel Aerospace Industries Ltd.)社やエルビット・システムズ社は以前から、他社製の機体の中身を更新する商売が得意である。IAI社に至っては、中東戦争で「敵機」となったソ連製戦闘機・MiG-21フィッシュベッドのアップグレード改修提案まで行った。しかもルーマニアからの受注に成功して、1990年代末期から2002年にかけて改修を実施した。機体メーカーのMiGは仕事をさらわれた格好で、当然ながらオカンムリであった。 機体メーカーだと、ライバル・メーカーの機体を改修するわけにもいかないから、事業の対象は自社製品に限られるのが普通だ(例外がないわけではないが)。しかし、搭載機器のメーカーにそういう制約はないから、返って事業展開の自由度がある。その代わり、他人が設計した機体をいじることになるので、それがリスク要因になる可能性はある。 最終的に、機体を構成するさまざまなシステム同士のすり合わせを行って整合を取り、正常に機能することを保障するのは主契約社の仕事だ。そしてもちろん、機器を機体に搭載する際には、機体のことをよく知っている機体メーカーの知見が欠かせない。改修であっても主契約社が重要な仕事を受け持っているのは確かだ。 ところが、金額的な分け前という話になると、電子機器や兵装を手掛ける副契約社が相当な比率を占める。高価で高性能な電子機器や兵装を加えるほど、それらを担当する副契約社の取り分が増える。そのため、主契約社となる機体メーカーから見ると、「アップグレード改修の話があれば仕事が増える」と単純に喜んではいられない。分け前を副契約社に持って行かれて、自社の取り分があまり残らないかも知れないからだ。新型機の納入が進むほうが、よほどおいしいのである。 しかし、ぜいたくを言っていられる状況ではない。冒頭で紹介したボーイング社の場合、米軍向けの新型戦闘機や新型爆撃機で受注に失敗したことから、軍用機部門の仕事確保が課題になっている。同社は2016年9月13日に、米空軍向け新型練習機の試作機を公開したばかりだが、これも競合が3社あり、受注が確定したわけではない。だから「改修でもなんでもいいから仕事が欲しい」というのが本音かも知れない。 機体を運用する空軍にとっての損得勘定は? 実際に戦闘機を運用する空軍にとっては、新型機の導入とアップグレード改修のどちらのほうがいいのだろうか。「今までの機体を使えるアップグレードのほうがコストパフォーマンスがよく万々歳だろう」と感じるかもしれない。しかし、それほど単純な話でもない。 そもそも、アップグレード改修による延命は問題の先送り。いずれまた、新型機導入の問題に直面する。また、五月雨式に改修を実施したり、段階的に改修内容を拡大していったりすると、往々にして、さまざまな仕様の機体が混在する。機体によって対応可能な任務や能力に差異があると、どの任務にどの機体を割り当てるかの調整が難しくなる。もちろん、整備担当者の負担も増える。 そのため、アップグレード改修によって機体の仕様が変わっていく場合には、できるだけ仕様が揃うように形態管理を行うことが重要になる。充分な予算を投入して、一気に全機を同一仕様に改修するのがベストだが、常にそれができるとは限らない。 身近な事例で考えてみよう。会社で使っている多数のパソコンを一気に新型に置き換えられるだろうか。たいていの場合、段階的に置き換えていくだろう。すると、さまざまなメーカーのパソコンが混在したりする。OSやアプリケーションが異なるようなこともあるだろう。結果として、社内教育が面倒になったり、保守管理が複雑になったりする。それと似ている。 また、新造機より安上がりとはいえ、改修のために予算を取られれば、その分だけ他の装備調達計画の予算を圧迫する。米空軍の場合、F-15の改修に予算を取られて、本当に必要としている新型の戦闘機・爆撃機・ミサイルといった装備の調達に影響が生じれば本末転倒だ。古いクルマに乗り続けていたら修理代が嵩んで、買い換えのための予算がなくなってしまうようなものである。 アメリカの場合、どの計画にどれだけの予算をつけるかの決定権を握っているのは議会。「既存の機体のアップグレード改修」と「新造機への置き換え」が対立すれば、それぞれの機体を担当するメーカーの地元を地盤とする議員の間で、利益誘導の綱引きが起きる。アメリカの議会では日常的な光景で、「国としての防衛産業基盤の維持」という建前とは違う世界がそこにある。これもまた、安全保障をめぐるビジネスの一断面である。 実は、ボーイング社は日本に対しても「手持ちのF-15をアップグレードしませんか」とアピールしている。しかし、防衛省はあまり乗り気ではないようだ。対象になりそうなのは、すでに進行中の近代化改修計画から外れた古い機体。これを改修するぐらいなら新しい機体に替えたいというのが本音のようだ。とはいえ、本音が通るとは限らない。米空軍が改修を決定したことを契機に、ボーイング社の売り込みがさらにヒートアップすることは間違いない。
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