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★★★ 記事 トランプが「日本叩き」を加速させ始めた真因 安倍首相との蜜月を演出していたはずだが… 湯浅 卓 2018/11/02 06:30 © 東洋経済オンライン
トランプ大統領はついに日本を標的にし始めたのか? アメリカのドナルド・トランプ大統領は、10月27日、インディアナ州でのスピーチで、 日本車に対し「20%の関税」をかける意思表示をした。 (中略) そこにはトランプ大統領による、日本の安倍外交に対するイラ立ちがある。 日本のメディアでは「ゴルフ外交」とも報じられる安倍晋三首相が訪米した際、トランプ大統領は、茂木敏充経済再生担当相のことを「タフ・ネゴシエーター」と聞いていると、安倍首相や記者団に向けて”牽制球”を投げていた。 茂木経済再生相は10月14日のNHK番組において、スティーブン・ムニューシン財務長官が日本との新たな通商交渉で通貨安誘導を阻止する「為替条項」の導入を要求したことに関して、「日米首脳会談や共同声明で為替の話は出ていない」と語り、為替は交渉の対象外という認識を示した。 そのうえで茂木経済再生相は、「私の交渉相手はロバート・ライトハイザー通商代表であり、日米間で為替について、必要な議論やコミュニケーションは財務大臣同士で緊密に行う」とも話し、ムニューシン財務長官が麻生太郎副首相兼財務相と協議する可能性があると述べたのである。 このメディア向け発言に、トランプ氏はカチンときたと推測できる。 麻生副首相兼財務相の責任ということは、茂木経済再生相のみならず、日本側のごく自然な発想であり、メディアの間でもさして異論はない。ところが、ネゴシエーションのアーチストとされるトランプ大統領からすれば、面白くないはずだ。 トランプ大統領からすると、日米の経済対話の責任者は、日本側では麻生副首相兼財務相、アメリカ側ではマイク・ペンス副大統領の2人に確定している。茂木経済再生相の発言は「麻生副首相にはペンス副大統領」という日米経済対話の枠組みを軽んじるもの、と受け止められても致し方あるまい。「ペンス副大統領の立つ瀬がないではないか」とトランプ大統領が激怒したとしても不思議ではない。 日本側はそれ以前にも、ペンス副大統領に対して、日米貿易交渉の文脈で失礼とも言える伏線があった。 たとえば10月11日付朝日新聞デジタルは、ペンス副大統領が日本との自由貿易協定に関して語ったスピーチの原稿を修正して発表した、と報道していることだ。 修正とはどういうことか。 ● (日本は)日本が交渉しているのは「日米物品貿易協定(TAG)」であり、「日米自由貿易協定(FTA)」ではないという立場に立っている。 特に、茂木経済再生相が「ペンス副大統領はFTAとは言っていない」と述べたことに、ホワイトハウス側が気を使ってペンス発言の修正になったと、日本メディアは報道したのだ。 ペンス副大統領のスピーチが、日本の交渉担当者に気を使って修正された、という日本的な論理はアメリカには通じない。 それどころか、アメリカの論理としては、プライドを傷付けられるのはペンス副大統領だけでなく、それ以上に、ペンス氏の盟友・同志でもあるトランプ大統領その人になるということだ。 ペンス副大統領に対する礼節を欠いた日本側の対応に対して、カチンときたトランプ大統領は、 同時に、 ● 最近の安倍首相の対中国接近と合わせて 安倍政権に対する我慢の限界に達しているのではないか。 その証拠に、あたかも為替条項だけでは足りないと言わんばかりに、日本車への関税20%をぶち上げたのではないかと推察される。 私が先日指摘・懸念したとおりだが INF離脱表明でわかった米ロ対立 いずれにせよ、トランプ大統領がこのタイミングでいったん言い出した以上、この関税20%は来年にかけて、日米交渉の大きな論点として浮上してきたことは間違いない。 それにクギを刺したのが、今回のインディアナ州演説だったのではないか。インディアナ州と言えば、ペンス副大統領の前職がインディアナ州知事であり、同氏の選挙地盤であることと決して無関係ではない。 さらに、トランプ大統領のイラ立ちを高じさせたことで見逃せないのは、ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)による、ロシア訪問に際しての不用意な発言だ。 それは対日「20%関税」演説の直前に発せられた。ボルトン氏のロシア訪問は、アメリカの中距離核戦力(INF)廃棄条約からの離脱に関する通告だった。 このニュースを最初に、しかも事前に報じたのは、ニューヨークタイムズだ。同紙はINF条約からの撤退を正確に予測していた。同紙の記事は、ロシアがINF条約に違反しているという認識を、アメリカはオバマ政権の2014年以来持っており、INF条約からの離脱こそ、従来の経緯を踏まえた正しい判断だと確信しているトランプ政権の立ち位置を明解に整理し、客観的に記述している。 ヨーロッパの安全保障を担う北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長も、ロシアにINF条約違反があるというアメリカの考え方を共有している。INF条約からのアメリカ離脱に、事実上同意している、と報道されている。 他方、ここで想起されるのは今年7月11日、ブリュッセルでNATO首脳会議に出席したトランプ大統領が国際記者団の前で、ストルテンベルグ事務総長を厳しく叱責したことだ。ドイツのアンゲラ・メルケル首相がロシアのパイプラインに頼る決断をしたことについて、ドイツの問題であるにもかかわらずNATOの問題としてとらえたからである。 実は、このことが今回のアメリカのINF条約をめぐる米ロ軍事対立の複雑な背景を構成している、と考えられる。 ここで問題なのは、ボルトン補佐官が国際安全保障問題のエキスパートだとしても、エネルギー問題の専門家ではないことだ。 今回の米ロ対立の背景には、 ヨーロッパに対するロシアのエネルギー攻勢と、 アメリカがエネルギーの輸出大国である事実という、 ● エネルギーの巨大市場における競合 が根底にあることは間違いない。 われわれ日本人は そんな状況下、プーチン大統領と会うかどうか、トランプ大統領自身が明言を避けているというのに、ロシア滞在中のボルトン補佐官は「今後、米ロ首脳会談が行われるかどうかは、プーチン大統領の意向次第」と述べたのだ。ボルトン補佐官によって、プーチン大統領との会談を丸投げされた格好のトランプ大統領にとっては、とんでもない話である。 トランプ大統領にしてみれば、フィンランドにおける米ロ首脳会談直後の記者会見で、欧米のネットが大炎上、支持率低下が一時的に懸念されたが、そのような厄介な問題を再び抱え込むことになりかねない。対プーチン大統領との交渉術はトランプ大統領も心得ているだろうが、よりハイリスクなのは、ボルトン氏から丸投げされた格好の今後の米ロ首脳会談直後の記者会見がどうなるかである。つまり、「反トランプ」メディアとの戦いを事実上、繰り返さざるを得なくなるということだ。 このボルトンの件も的外れ 民主党でくすぶるトランプ弾劾の動き 「反トランプ」メディアのフェイクニュース同様にトランプ大統領を苛立たせるのは、民主党のテキサス州下院議員ベト・オルーク氏の存在だ。 彼は、2016年大統領選で、トランプ氏と共和員最終候補の座をめぐって戦ったテッド・クルーズ上院議員と今、テキサス州上院議員への座をめぐって激しく競っている。 このオルーク議員は、フィンランドでのトランプ・プーチン会談、その後の記者会見を猛烈に批判し、そのことを理由にトランプ大統領の弾劾を主張してきた人物だ。今、トランプ大統領は、かつてのライバルであるクルーズ議員の応援に回っている。 結果として世論調査では、オルーク議員に追いつかれそうになっていたクルーズ議員が、ここへきて世論調査で5%の差をつけられていると報じられた。トランプ大統領の人気、集票力の強さを示すものだと言えるよう。 ただ、メディア・リスクのほうは、そう簡単にいかない。トランプ大統領は今後、ロシアとの首脳会談のたびに、アメリカ人記者団の前で、再びフィンランド会談での轍を踏まないという保証がないからだ。さらに、第2、第3のオルーク議員が、民主党側に誕生してこないとも限らない。トランプ氏にとって、米ロ首脳会談の行方は、鬼門と言ってもいい。 そうした状況の中、安倍首相は中国の習近平国家主席と会談し、日本のメディアは「日中接近」とはやしたてている。 さらに、トランプ大統領も訪ねたことのない安倍首相の別荘に海外首脳で初めて、インドのナレンドラ・モディ首相を招待した。 日本のメディアは、これを「別荘外交」と評している。 安倍首相の得意な「ゴルフ外交」にしても、トランプ大統領によるジャパンバッシングから防御するような、蜜月時代を演出する効果は薄れてきたのかもしれない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.11.03 03:40:06
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