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Happy HAlloween!
生憎と今日から天気は悪くなりそうですが、不思議な小説を紹介します。

13番目の物語　
The Thirteenth Tale
上下　ダイアン・セッターフィールド/著　鈴木彩織/訳

父譲りの読書好きであるマーガレット・リーは父の古書店に勤めながらいくつかの文章を書いていた。そんな彼女のもとに、“現代のディケンズ”と呼ばれる国民的女流作家ヴァイダ・ウィンターから「自分についての全てを語るからヨークシャーの屋敷まで来てほしい」という手紙が届く。ヴァイダは二年間で十九種類のインタビューに応えてきたが、その中で語られてきた彼女の生い立ちは全て異なるものばかりだった。さして有名なライターでもなく、無名の人達ばかりを書いてきた自分になぜこのような申し出が？いぶかりながらも好奇心を刺激されたマーガレットは孤独な館に住む作家の元を訪れるが…。

　物語には双子の姉妹が登場する。そっくりな髪の色と瞳を持っていたが性格は正反対で片方は凶暴、片方は天使のような優しさを持っていた。双子姉妹は、両親の愛情とは無縁に育ち、彼女達だけの世界を持っていた。反発しながらも強い絆で結ばれていた少女達の感情表現、また片方が失われた時の残された側の感じ方などは、萩尾望都さんの短編漫画『半神』で描かれていた部分とクロスする。

　
1．全く見知らぬ他人から招待を受けた主人公が、未だ語られていない物語を解き明かそうとする
2．舞台がイギリスの古い屋敷で、限られた召使がかしづいている閉じられた世界である
3．見事なイングリッシュガーデンがある
4.語り手の真の意図が物語の進展と共に明かされていく
5．聞き手である主人公の身にも変化が起こる

という点において、本作は先ごろ出版されたケイト・モートンの『忘れられた花園』に似ている。私たちはStrangerであるマーガレットの視点で踏み込んでゆくことになるので、最初のうちは勿論老獪で稀代の物語作家ヴァイダを疑いを持って眺めている。エンジェルフィールドというその名前とは裏腹に、屋敷では愛と憎しみ、嫉妬、執着、失恋、誕生と死など様々な事件が起こる。その中には、とても事実とは思えない物語もあれば、事実を覆い隠すために作られた物語もある。最初のうちは懐疑的な聞き手マーガレットの反発が描かれていたが、彼女のヴァイダに対する反感が揺らいでいくことで、事実（Fiction）/物語（Story）の区別が次第に曖昧になってゆく。更に、時折マーガレットが外部に委託する調査によって記録として残る事実が補完され、重層的な物語が出来あがってゆく。その中から現れてくるのは、過酷な運命を一人で胸にしまいこみながら生きてきた一人の女性の強さ、優しさであった。

　『忘れられた花園』と同じく上下巻であり、表紙が開かれた宝箱で、それぞれのアイテムが物語の重要な要素であるという物語への誘い手の役割を果たす装丁も似通っている。また、聞き手、書き手共に相当な読書家で、作品中に既存書籍が多く登場し、中でも『ジェイン・エア』はアイテムかつ登場人物の運命、ストーリーとクロスする重要な役割を果たす。イギリスのある時代の文学作品を集中して読んだことがある、という方ならば、他にも物語の中にいくつも共通したモチーフを見つけられることだろう。


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