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カテゴリ:海外のミステリー&ファンタジー小説
みなさん、こんにちは。ついに8月ですね。
さきほどNHKBSで放送されたドキュメンタリードラマ『玉音放送を作った男たち』を見ました。折しもうちの街では花火大会が行われていました。同じぼん、ぼん、という音であっても戦争当時は爆弾が空から降ってくる恐ろしい音でした。いつまでも平和の象徴である音で会って欲しいものです。 さて、こちらは死を待つ人たちの元に現れる男が主人公のミステリーです。 死を騙る男 The Calling インガー・アッシュ・ウルフ 末期癌で81歳の老女ディーリアはサイモンと名乗る男を迎え入れる。翌日、彼女は首が切り離されんほどに喉が切り裂かれた凄惨な姿で発見されるが、死因は毒殺だった。明らかに彼女は「殺されて」いるにも関わらず、麻酔薬を投じ、次に小指を折って、被害者が痛みを感じていないのを確かめたあとに殺すという配慮がなされている。一方で、喉を切り裂き全身の血が抜き取られている。慈悲と残虐性を併せ持つこの犯罪は、一体何を目的としているのか? 事件を担当する事になったのは、ポート・ダンダスの警察署の署長代理でもある61歳のヘイゼル・ミケイリフ警部とその部下達だ。といっても総勢12人しかおらず、他の署と統合しようと考えている上層部は暫定署長のヘイゼルを軽く見ている節がある。 日本でも定年が伸びつつあるが、61歳ともなればそろそろ引退後の生活を考えて管理職に甘んじていればいい年齢だ。しかし彼女には87歳になる元町長で母親のエミリーがおり、とてもじゃないが引退を許してくれそうにない。よって彼女は腰や背中の痛みを鎮痛剤やアルコールで紛らせながら、この事件に関わってゆく。 犯人サイドとヘイゼル、ポートダンダス署のメンバーと三つの視点で物語が進行し、犯人サイドが若干時間的に先行している。しかも先に書いたように、被害者―そう読んでいいかも躊躇われる―は犯人が自分に何をやろうとしているかを承知して迎え入れており、犯人側のアドバンテージがかなりある。また、犯人もヘイゼルも「自分が正しい」と思いこんだら猪突猛進する似通ったタイプであり、せっかく頼れる部下がいながらも、つい暴走しがちなヘイゼル側に、またもやマイナスポイントが加算される形勢になる。 さあ、この圧倒的劣勢をどうひっくり返していこうか!というのが本作の肝であるが、一方で死生観に対する問題も投げかける。犯人の行動を非難し、罪に問うことはできる。しかしコミュニティも家族も救うこともその苦しみを和らげることもできなかったのに対して、彼は死と向き合う恐怖に苦しむ人々を、ある意味では救ったことになる。死の恐怖と向き合わなくていい人には犯人はカルトそのものだが、そうでない人にとっての救いは見つからないままだ。事件を解決すれば全てが目出度し、とは限らない、何か大きな忘れ物をしたような気にさせられる。 本作は本国では第三作まで出版され、第一作はスーザン・サランドン、ガイ・ピアース、ドナルド・サザーランドら共演で映画化されているが、日本ではDVDのみで発売。キャスティングは結構合っている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
July 5, 2018 12:07:47 AM
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