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March 7, 2016
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みなさま、こんばんは。線路わきにつくしがはえていました。今年は早いです。ただ明日は雨のようなので、その後もっと育ってくるのかもしれませんね。

さて、今回はミステリ作家ジョン・ディクスン・カーの作り上げたカッコいい探偵アンリ・バンコランが主役の長編です。

髑髏城新訳版
Castle Skull
ジョン・ディクスン・カー

 普通文庫版の人物紹介といえば、カバーの右側と、本体の最初の頁に二度掲載されています。そしてその内容は殆ど異ならない―はっきりいえば同じです。ところが本作の場合は複数のレビュアーが言及されているとおりなのです。例えば

マイロン・アリソン 髑髏に三発喰らって髑髏の上で踊り、灯油にまみれて炎上
エミール・ルヴァスール 主人炎上にヴァイオリンで華を添えた客人

こう並べてみるとどうですか?何だか二人して金閣寺の世界に行ってしまったようでしょう?
炎に巻かれて踊る(いや、苦しくて悶えてるだけです)人間の傍で、ヴァイオリンを弾く男…何だか二人が怪しい関係にあるような想像すら可能です。ところが実際は、ちょうど炎に巻かれていた時間にヴァイオリンを弾いていただけの話なのです。他にも「威勢はいいが男運は悪い」とか、「いや、たぶん、後世の知らない人間にそんな事言われたくないと思うよ…」というコメントが並んでいるのです。なぜこんな変則的なスタイルを取ったのでしょうか。

 オリジナルがそうではないと仮定して、の話になりますが、ひとつは、現代読者へのアピールとも受け取れます。なぜならば、物語に登場する新聞記者が「マジかよ!」なんて台詞を口にするのですが、シルクハット被ったバンコランの時代、こんなくだけた言葉は使わなかったでしょう。前の訳では恐らく別の言葉になっていたはずです。公爵夫人の口調ががらっぱちであることも含め、受け入れやすくするためのアイディアという点は買いますが、まあ、ちょっと変化球過ぎたかな、というのが正直な感想です。そんなことしなくても十分中身で勝負できる作品なのですから。

 さて本編。ラインの急流を見下ろす絶壁に聳え立つ髑髏を模した城で起こる殺人事件について、富豪ダネイがバンコランに捜査を依頼します。富豪でありながら「あんたこういう事件に興味あるんだろ?だったら、ただで捜査やって」というダネイを「うわ、ケチ!」と思いましたが、本当のところ、ちょっとひねくれ者のバンコランの事ですから、「カネに糸目はつけないから解決してくれ!」なんて正攻法で頼んだら、即座に断られていたかもしれません。そう考えると、富豪は結構バンコランの事を分かっていたようです。

 こうしてやってきたバンコランは、いつになく浮かれているようです。それというのも、かつて諜報戦を戦ったフォン・シュトロハイム男爵と推理を競うことになったからで、ジェフ・マールが学童相手の舎監気分を味わっているというのですから、いつもの彼よりも相当子供っぽいのでしょう。表面ではにこやかに昔話などをしつつ、水面下ではバチバチと火花を散らす二人、その二人をどっちもどっちだなとどこか醒めて見ているマールは、作者カーの投影でしょう。三者の後ろにいるそれぞれの国、ドイツ、フランス、アメリカの関係をも思わせるようで、なかなか面白い趣向でした。

 

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最終更新日  March 7, 2016 12:29:20 AM
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