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March 9, 2016
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みなさん、こんばんは。今日は土手に土筆つみに行ったのに、河川工事をしていてすっかり予定が狂ってしまいました。以前は今ぐらいの季節に野焼きをしていて土筆を見つけるのも比較的簡単だったのですが…家の近所の線路のそばにちょっと見つけました。こうして自然がなくなっていくんですね。

さて、こちらはちょっと癖のあるラテンアメリカの作家の作品です。


文学会議
El congreso de literatura
セサル・アイラ

  セサル・アイラは確信犯だ。

前作『わたしの物語』においても、「わたしの物語、というのはわたしがどのように修道女になったかと言う物語」と宣言したのであれば、まず
1.わたしはどのような人物か
2.なぜ修道女になりたいのか
3.そのために何が必要で何が試練なのか
を明らかにして物語を先に進めるのがセオリーというもの。それなのに主人公は延々と「苺アイスクリームがまずい!」と言い続ける。
 はっ!もしや苺アイスクリームに毒を入れて人類絶滅を?いやいや、そもそも苺アイスクリームが嫌いな人には無効だから、それ!
 では他人と違う「わたし」を差別化したいとか?延々と悩み続けた挙句「苺アイスクリームは本当にまずかった」というオチで「修道女どうした!」とツッコミたくなったころには別の騒動が起こっていた。つまり彼の作品は、普通の小説で見るようなストーリーの進み方をしていない。

 『試練』も、一言で言ってしまえば、主人公が女性から「ねえ、やらない?(やるその一)」と言われて「やる(やるその二)」話だ。「あら、他愛もない」と思うかもしれないが、実は(やるその一)と(やるその二)の中身は違っている。主人公が別の事に気を取られてスル―した時に、(やるその一)から(やるその二)への論理のすり替えが行われてしまった。『わたしの物語』同様に、「メインと関係あるのかこれ?」という話が次から次へと挿入される水面下で、すい、と主題のスライドが行われ、「あれ、何でこんな事に?」と首をかしげるラストへ突入する構造になっている。

 『文学会議』も、とことんスベっていく構成だ。世界的に有名な文豪カルロス・フエンテス(なんだかスヌーピーみたいだ World Famous…)のクローンを作ろうと企んだ作家の企みの前に、まるまる一章使って「なぜ彼がお金持ちになったか」という話が出て来る(全二章しかないのに!)。新人作家のデビュー作なら「本筋に関係ないストーリーは伏線に生かそうとしない限り短くすべし!」と寸評出してつき返されるところだ。
ともあれ
1.なぜクローンを作ろうと思ったか
2.誰をターゲットにするのか
3.どうやってクローンを作ったのか
というメインの要素はわりと早めに出て来るのでやれやれ、と思ったが、こちらもまた話が進まない。
フツーならば、計画が成功するのかどうかハラハラする主人公の心理描写と、周囲の様子を交錯させながクライマックスへと緊張感を高めていくのが定石だが、作者の自分語り+翻訳(「いや、実はこういうことではなくて…」)のリフレインを読んでいるうちに、これまたクライマックスがやって来る。

 
 セサル・アイラ小説はいずれも一人称小説だ。他に語り手がいない、つまり読者が物語から逃げられない状況に陥ったこの形式でしか「うねうねする構成の小説」は成り立たない。三人称小説にすれば、複数登場人物がいる場合「こんな考え方はしない」という人物が独りは現れる。そうすれば「どこかおかしいよ、これ」というポイントが指摘されてしまい、ラストまで続かない。そうかといって「登場人物がみなうねうねした思考パターン」というのもご都合主義と指摘されかねない。

 「定石通りでない」ということは「いつどのように変化するかわからない」という事でもあり、別の緊張感がある。但し、緊張した分、その後の脱力感もハンパない。なので同じ事をやっていると、飽きられる可能性、或いは早々に見切られる可能性もある。

 こんな読者の推測を見切った上で、三作以降も同じスタイルで行くとするなら、セサル・アイラは間違いなく確信犯だ。

 おや?今回のレビューも、えらくうねうねしたような。伝染ったかな(いやーん)。


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最終更新日  March 9, 2016 12:05:08 AM
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