映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさんこんばんは。大リーグ、ドジャースと10年契約を結んだ大谷翔平選手がドジャースタジアムで入団の記者会見に臨み、背番号「17」の真新しいユニフォーム姿を披露しました。今日も山田風太郎作品を紹介します。

柳生十兵衛死す〈上下〉
山田風太郎
毎日新聞

遂にこの日が来てしまった。そう、人はいずれ死ぬ。それに、タイトルで宣言している以上、これは既成事実。そうはいっても、終わりがそこに落ち着くと知れば、気落ちする。
しかし作者は読者の感傷を断ち切って、 第一章で、山城国大河原で斬られ、倒れている柳生十兵衛を登場させる。 え、冒頭で死んでいる？タイトルは「死す」だし、これじゃあ物語が終わってしまうじゃないか。いや、違う。 『魔界転生』『柳生忍法帖』であれだけ無敵を誇った十兵衛を、一体誰が、何の目的で、どのように殺したのか？フーダニット、ホワイダニット、ハウダニットの謎が同時に提起され、更に一つ、気になる言葉がもたらされる。
「殿の、ただひとつのお目がつぶれて、ひらかぬはずのほうのお目がひらいておる！」
ややや？そういえば、時代設定の記述は、ここまで何もないぞ。
果たして、討たれたのは本当にあの十兵衛か？
読者の思惑をあざ笑うかのように、著者はここで「以下は、この顛末に至る物語である。」と引く。

次に現れるのは、慶安の世に生きる、あの馴染みの十兵衛である。相変わらず口も腰も軽く、「あいつはあいつにホの字だろ？」と言わでもの事を言ったり、能楽師・金春竹阿弥と求道者同士で盛り上がっている。と思ったら、危機に見舞われると能が聞こえ、彼が「清水の舞台から飛び下り」た後、舞台は過去-室町に飛ぶ。
次に始まる室町までの間に、著者は「2つの時代の物語が同時に繰り広げられる理由」というのを述べているが、私は別に必要性を感じなかった。そのまま「タイムスリップしました」の一言で済ませてくれてもよかったのに。だって、細かい事言い出したら、タイムパラドックスで、片方の物語が成立し得なくなるだろうし。
連載当時は、時間旅行にもかっちりした辻褄合わせが要求されたのだろうか。

さて室町時代には、もう一人の十兵衛がいた。頃は三代将軍足利義満の時代で、今回の天衣無縫・最強のキャラは義満である。陰流の名手・愛洲移香斎に師事して印可を受けた、将軍御供衆の一人である十兵衛は、子孫の慶安の十兵衛とは逆に、右の目が糸のように閉じられている。
おや？何だか気になる記述が出てきたぞ。室町の十兵衛も奇遇な事に、能楽師・世阿弥と親交があった。彼もまた、絶体絶命の危機に、能を呼び水にして時空を飛ぶ。タイトルやキャラを含め、「二つの対照的な、似て非なる存在」は、物語中に繰り返し出てくるモチーフ。こうして2人の柳生十兵衛が2つの時代を行き来しながら物語が進む。時代を超えてゆく毎に、2人の十兵衛のはちゃめちゃぶりは、魔人に近づく。だからそんな彼等には、十兵衛と死者の存在にのみ反応する「死なない剣豪」の伊藤一刀斎みたいな剣豪・移香斎も、「くの一忍法帖」で苦杯を飲んだ紀州大納言頼宣も由比正雪も、風狂坊主・一休さえも適わない。よって「彼を倒せる者はいるのか？」という疑念が、ますます強くなる。けれどやっぱり最後には、すたたたたん！と、3つのダニットにけりがつく。後にはただ、空虚感と共に読者が残される。

平成3年毎日新聞紙上で連載が始まった。十兵衛三部作の完結編でありながら、室町ものでもある掛け橋の作品。

​
【中古】 柳生十兵衛死す 上 / 山田 風太郎 / 毎日新聞 [単行本]【メール便送料無料】【あす楽対応】​​
【中古】 柳生十兵衛死す 下 / 山田 風太郎 / 毎日新聞 [単行本]【メール便送料無料】【あす楽対応】​​もったいない本舗　楽天市場店​