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みなさんこんばんは。相撲取りの元寺尾が亡くなりましたね。今日も山田風太郎作品を紹介します。

妖説忠臣蔵​
山田 風太郎
集英社文庫

　忠臣蔵という大木の、今日はあちらの枝、明日はこちらの枝と
書いてみると、こうなる。「殺人蔵」はミステリー、「蟲臣蔵」「俺も四十七士」は、あまりにもまばゆい光に負けてしまった浪士の悲劇と、物語の雰囲気も様々。
松の廊下の刃傷の前触れに始まり（「赤穂飛脚」）、
討ち入りの一年後で終わる（「生きている上野介」）この短篇集は、
忠臣蔵の端緒である刃傷を小さな芽とすれば、最後は枯れ木に咲いた徒花といったところか。

　主君の一大事を知らせるため、江戸・赤穂間を5日間で走った事で有名な飛脚。ところが赤穂への飛脚道中は、歌舞伎でも、漫画「パタリロ！」でもすっ飛ばされている。
他の場面に比べてドラマ性に乏しいと見られたからか。よりによってこの地味な場面を取り上げ、後に最後まで主君・吉良上野介を守って戦ったとされる清水一学、凶賊、そして本命の赤穂藩の飛脚達、それとは別の目的を持った飛脚達など虚実の人物と事実を絡み合わせ、なおかつ「仮名手本忠臣蔵」の「お軽勘平」にも目配せしながら物語を作り上げてしまった山風はやっぱり凄い。結果はもちろんわかっているが、4つどもえの抜きつ抜かれつには引き込まれる。頑張った人が必ずしも一番乗りできるわけではないからなおさら。酔っ払いで強いんだか弱いんだかわからない清水一学。凶賊ながら、一度のキスと急場を救われた事で、赤穂飛脚の一人・萱野三平を陰で支える海つばめのお銀。海千山千の修羅場を渡ってきたお銀がプラトニックな愛情を捧げる。飄々としていて、いざとなれば強い一学。こういうギャップがたまらない。歴史的事実を振り返り、「別の場所で出会っていれば」という言い方をされる一組がいるが、一学とお銀、一学と赤穂飛脚、お銀と赤穂飛脚、彼等もその部類。みんな、それぞれの立場に立ってしまっただけなんだよね。

　読み合わせがまずかったのかもしれない。同時期に読んだ『室町少年倶楽部』は、確かに妖しい雰囲気がしたのだけれど、本書はタイトルほどには妖しさを感じなかった。「妖説」ではなく「異聞」の方が相応しいと思う。確かに、人の規範を乗り越えて行動する人達も登場する。だが、「室町…」の登場人物が本当に魔界に踏み込んでしまっているのに対し、こちらはあくまで人間という入れ物の中に狂気が留まっている。

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