カテゴリ:M【マネー】【ビジネス】
以前の日記で、経済政策だけはどれが「正しい」のか? わからないと書いた。
経済というものは生もので、しかも環境や与件がめまぐるしく変化するので、古めかしい経済理論だけで先行きを予測できるものでもないと書いた。 特に外国為替の先物レートは読めないとも書いた。 しかし、やはり非常に大きなトレンドなどはある程度予知できるものだし、例えば好景気がいつまでも続くものでないことなどは、だれでも理論の裏付けなど無くてもわかることだ。 商社に勤めてはいたが、私はプラント輸出という、僻地に工場を建てるという、ある意味で僻地探検みたいなのんきな部門にいたので経済にはそれほどくわしくない。 外国為替についても商社や銀行には外国為替部東部門があって、そこなら本当に専門的知識を身につける機会があるのだが、そういう部門に入った経験もない。 それに貿易という世界を離れて、すでに相当の年月が経っているので現役の感覚ではないが、ドルという通貨の将来をちょっと考えてみたい。 ―――― ◇ ―――― 今はユーロという欧州連合の通貨が出来ている。 このユーロが最近非常に強い。 対円レートでは史上初めてドルを凌いでいる。 逆に言えばドルが弱くなったということ。 原因はいろいろあるだろうし、私は経済学者ではない。 だからレベルは低いが今思いついた程度の、おおよそのことを述べる。 ―――― ◇ ―――― 先ず、米国の株式市場がここのところ頭打ちで、株安におちいっていた。 なにしろ米国経済というのは貯蓄が少なく、株頼みのもので、その株が下落したのでは購買力が低下する。 国際資金が米国株式から商品などに逃げる傾向が出た。 これに9.11の同時多発テロが発生。 米国の安全性に懸念を抱いた国際資本が、一部米国から撤退した。 もうひとつ。 ユーロ経済圏というものが出来れば、その圏内での貿易の決済は従来のドルからユーロへとシフト(移る)する。 これでドルへの需要が落ちる。 代金を払う時に準備する通貨がドルでなくてもよくなったのだから、ドルの価値が下落した。 ユーロ経済圏というのは3億人の人口である。 先進国中心だから購買力も強い。 それに戦乱は無いから経済は安定している。 クーデターが起こって、経済システムが急に垂れ流しの閉鎖システムである共産主義体制になるなんてことはない。 通貨というのはその国力への信任だからユーロは着実に強くなり、ドルを追い、遂に追い越した。 さらに大きな転機は米軍のイラク侵攻。 まずアラブ諸国の反発で米国への不安がドル安を誘発した。 続いて独仏が米国に離反したことがドルへの信認を弱めた。 これでドル離れが世界的におこってますますドルが下落した。 ―――― ◇ ―――― スタンピード stampede という言葉がある。 動物・家畜などの群れが何事かにおどろいてどっと逃げる、暴走をいう。 転じて人がわれがちに逃げたり、敗走することも指すらしい。 VANさんが雪崩現象と書いていたが、経済ではそういった方が適当かも知れない。 西部劇ではこのスタンピードのシーンがときどき見られる。 カウボーイが牛の群れを追って( cattle trail という)、大市場へ牛を売りに行くのだが、その途中で牛の群れが何かにおどろいて大暴走してしまうのだ。 そのときにカウボーイが「スタンピード!」と絶叫する。 昔「ローハイド」というテレビ番組があった。 1959年から1966年まで日本で放映された長寿人気番組で、私なども毎週楽しみにして必ず観ていた。 牛を追うカウボーイの生活にいろいろな事件が起こる。 主役は「フェイバー隊長」でサブが「ロディー」。 カウボーイの集団で隊長と言うのもおかしいような気がするが、それは今の感覚で、当時は何とも思わなかった。 フェイバー隊長に扮した人は、エリック・フレミングという人で、私の父がその時代に米国へ行った時に撮影所見学をする機会があって、このエリック・フレミングさんに会っている。 大変気さくで親切な人だったそうだが、後に映画の撮影中、激流にのまれて死亡した。 ロディに扮したのが無名時代のクリント・イーストウッド。 今のようなシワシワの顔でなく、ちょっと頼りない二枚目の青年。 このローハイドでも、スタンピードの場面は売り物だった。 おうおうにしてこのスタンピードは夜おこることになっている。 寝静まってはいるが、長旅の疲労と水不足は人間だけでなく牛をも神経過敏にしている。 そこに野獣とかなにかが侵入したり、大きな音がしたりがきっかけで牛の群れが暴走し始める。 止めることは先ず出来ない。 谷などに追い込むか、牛の疲労を待つしかない。 ―――― ◇ ―――― スタンピードも、雪崩も、人の噂も、いつかは止まる。 人の噂も七十五日だそうだが、株式の暴落や通貨の下落は長く続く。 一度トレンドになると経済的な要因が一時的に無くなっても、市場心理でまだ続くこともある。 すでに各国で外貨準備金の一部をユーロにシフトする動きがある。 国際ポートフォリオ(資産の分散投資)がユーロからドルにシフトし出している。 これまでの自分のドル資産の目減りにこりたのと、将来の事を考えて、ドル資産からユーロ資産にシフトすることで、将来の為替差損をヘッジ(リスク分散)して、目減りを防ごうとしているのだ。 ―――― ◇ ―――― 米軍のイラク侵攻。 人々はこれをイラク石油利権を持っていたフランスやドイツからの確保とか、米国保守派ネオコンの宗教的ともいえる独善だとか言うが、私の考える米国が侵攻した動機はもう一つある。 2000年にイラクは石油代金の一部をユーロ建てにした。 もちろん、フセインの米国に対する反感がベースになっていて、米国に一泡吹かせようと言う動機があってのことだ。 石油代金の支払いは「オイル・ダラー」という言葉があるように、ドル建てと決まっていたのに!である。 それが崩れるきっかけをイラクは作った。 「石油代金のユーロシフト」という恐ろしい現象のきっかけを作ったイラクを米国は許せなかったのだと思う。 これをきっかけに、産油国が石油代金の決済をドルからユーロへシフトしようという動きが出たからだ。 それにイラクの石油埋蔵量は世界有数。 それがユーロ建てになるとドルの基軸通貨としての地位が危なくなる。 米国にとっては将来的にもフセイン政権の存続は危険だったのだ。 ーーーー ◇ ーーーー 「単なるドル安」は、米国の貿易赤字・対外債務がほとんどドル建てであることから容認できる。 ドルの借金には自国通貨のドルで返せばいい。 外貨を買い求める必要はない。 ドル紙幣を刷る輪転機をまわせばいい。 以前のプラザ合意でも日本の犠牲の元でドルの切り下げがあった。 現に現在のブッシュ政権もドル安政策を取っている。 ーーーー ◇ ーーーー しかし、もし巨額の石油代金のユーロへのシフトが行き過ぎて加速すると、スタンピードがおこる可能性があって、ドルは急落する。 対外債務の重圧は減るが株式市場・債券市場は急落し、国内景気はめちゃめちゃになり大統領選の再選もあり得なくなる。 米国の破綻は世界経済に波及して、最悪、世界恐慌になる。 ーーーー ◇ ーーーー もう一つ、ドルの下落よりももっと米国が懸念していることがある。 米国の財政赤字・貿易赤字は巨額である。 現在輸入している原油代金はドルで決済できるから貿易赤字を抑えることができる。 これがユーロ決済となると、米国といえでもユーロで決済せねばならなくなって、貿易赤字はさらに急激に膨らむのである。 さらに、この財政・貿易の巨額の双子の赤字を抱えてどうして米国だけが債権管理などの禁治産者(デフォルト)あつかいを受けないのか。 それは一つには世銀とかIMF(国際通貨基金)とかの国際金融機関が実質、米国の代理機関だからだ。 その上に今までは世界の唯一の基軸通貨だったから、猫の首に鈴を付けようと言う者もなかった。 しかしユーロがドルと並んで基軸通貨となると、もう米国のいいなりに事は運ばなくなり、米国の財政的破綻がハッキリと問題視されるようになる。 そうなるとどういうことになるか? 米国は国際社会から貿易赤字と財政赤字という双子の大赤字を縮小するよう強要され、最悪のシナリオとしては、債権管理まで受けて、国民は極度の耐乏生活を送ることになりかねない。 自動車世界の米国が石油不足になると、もう底なしの地獄になる。 米国の歴史始まって以来の国難となる。 ーーーー ◇ ーーーー イラクに続いて米国が原油の最大輸入国であるベネズエラでチャベス政権ができて、石油の減産とともに石油代金のユーロ建てを実行しようとした。 これに対して米国は直ちにクーデターを画策してチャベス政権を事実上打倒した。 イラク以来、イラン、ベネズエラ、中国、サウディアラビア,などがユーロシフトの可能性を示唆している。 ドイツのシュレーダー首相もロシアのプーチン大統領との首脳会談で、ロシア石油のユーロ建てを打診している。 ロシア自身も決済通貨をユーロ建てにすると数回言明しているという。 ロシアは天然ガスの埋蔵量が世界一、石油の生産量もサウディアラビアに並ぼうとしている。 ロシアの石油輸出は大部分欧州向け。 世界一の埋蔵量の天然ガスも欧州向けとされている。 これがすべてユーロ建てとなるとドルへのインパクトは大き過ぎる。 OPEC・石油輸出国機構も石油代金のユーロ決済を討議しようとしている。 インドネシア・マレーシアも同様の意図を発表しているという。 こういう構造とトレンドの中で、為替の長期的先行きを見れば、ドルと円との関係は別としても、ユーロとドルとの関係でみれば、ドルの下落は避けられないのではないか? ーーーー ◇ ーーーー 日本経済はドルに頼っている。 おかげで米国株式市場につられてバブルを経験した。 それにもこりずに米国債を営々と買い続けて、いまや膨大な額に達している。 日本がユーロに資本・資産シフトするというのは国際金融界にとって大事件だから噂が駆けめぐり、ドルが下落して、米国債が下落して、日本はドル資産にひどい打撃を受ける。 いわば一蓮托生の関係になってしまっている。 これは米国債を買わされているアジアの諸国も似た状況にある。 日本の保有する巨額の米国債は、こういう事情で売ろうにも売れない上に、長期的に見て目減りさえする資産であることはほぼ確かだ。 それに日本経済の根源である対米輸出があるかぎり、米国に逆らうこともできない。 これはこの頃の中国も似たような状況におちいってしまっている。 中国も現在こそ米国に強気を示しているものの、長期的に見れば、自国市場の購買力が成熟するまでの期間においては、じょじょに米国に頭が上がらないという傾向が出てくるはずと、私は見ている。 日本経済の再生はバブルの分析・検討・反省が不可欠だと思うが、いまだに個々の散発の意見にとどまっている。 行動より検討が得意な日本だが、これだけは検討できないらしい。 ―――― ◇ ―――― 今日の俳句 またみることのない山が遠ざかる 種田山頭火 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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