映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさん、こんばんは。これから暖かくなるみたいですね。つくしも見られるかな？
パラリンピックでも日本選手頑張っていますね。

今日もグレアム・グリーンの作品を紹介します。

ヒューマン・ファクター グレアム・グリーン・セレクション
The Human Factor
ハヤカワepi文庫
グレアム・グリーン

黒い人影が立っているが、その影は真っ白だ。かつ、影が別方向に延びている。その姿は、複雑な立場に置かれた主人公そのものだ。

　ソ連に潜入している情報部員から、イギリス秘密情報部六課Aからアフリカ関係の内部情報が漏洩している事実が判明する。六課課長のワトソン、六課Aのモーリス・カールスとアーサー・デイヴィス、三人の中の誰かが二重スパイと考えられる。バーシヴァル博士は、デイヴィスが二重スパイと判断し、細菌毒による毒殺を提案する。

　ジョン・ル・カレの『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』と似たような設定だと思ったら、元になっていた事件が同じで、グリーンもル・カレもMI6に所属していた。異なる設定はスマイリーが二重スパイではない点に対して、モーリスは二重スパイであることだ。何の罪もない軽はずみな同僚が疑われて殺されようとしていくのを止めるか、保身のために見て見ぬふりをするか。非情なスパイであれば間違いなく後者であろうが、タイトルが不安定要素＝Human Factorであるのだから、そう割り切れるはずがない。

　ヒューマン・ファクターを排除できた者は、おそらくスパイとしては優秀だろうが、人間としては幸せとは言えない。だがヒューマン・ファクターに流された行動を起こした者は、組織の掟に縛られる。危険と隣り合わせでいながらも祖国の安全を守る、映画のいわゆるかっこいいスパイのイメージとは程遠い。日常の瑣末なことに悩み苦しむ普通の職業人としてのスパイの日常を描く。途中から追われる側に立ちつつある事をひしひしと感じていくモーリスの危機感の煽り方や、間違えた人物を殺してしまった事に対する組織内での考えの相違など、派手なアクションがなくとも心理描写を重ねていくことでサスペンスをじわじわと煽る。


ヒューマン・ファクター グレアム・グリーン・セレクション ハヤカワepi文庫 / グレーアム・グリーン 【文庫】ローチケHMV 1号店