映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさん、こんばんは。ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相が、ナチス・ドイツの指導者アドルフ・ヒトラーに「ユダヤ人の血が流れていた」と発言し、イスラエルが猛反発しています。イスラエル外務省はロシア大使を呼び出して謝罪を要求しました。今日から5日間山田風太郎作品を紹介します。

明治忠臣蔵
山田風太郎
河出書房新社

本当ならば、私はすごく怒っているはずだ。
うら若き、それも、何の咎もない女性が、拷問を受けている話なのだから。
それなのに、何度読んでも笑いが止まらない。

　その女性とは、おかね。参議広沢真臣の妾であり、彼の暗殺事件が起こった時の、唯一の目撃者である。 今ならば、人権侵害で即座に訴えられるような拷問を、やっきになって加えるポリスには、理由があった。この事件、明治天皇じきじきに、早期解決の厳命が下っていた。
純粋な被害者への憤りより何より、上を見て行動する官僚主義の嫌らしさが鼻につくし、何よりおかねの味方が誰一人いないので、途中までは、やはり彼女がとてもかわいそうになる。江戸東京博物館で、拷問器具をいくつか見て来た後だけに、想像上の産物が押し寄せてくる気がして「うわぁ。」と思わず目をつぶる。

　しかし拷問に耐えかねた彼女の口から「私はいかにして私が惚れた男達とセックスしたか」という話が出てくるあたりから、「ん、待てよ。」と閉じた目を再びそっと、あけてみる。
「何でそんなプライベートな下世話な話を、貴重な時間と税金を使って聞かされなければならんのだ。」と憤然としながらも、痴情絡みの犯罪という点も捨てられないので、ポリスはちゃんと聞かなければならない。そして、余さずこの話を書き取り、つまり調書を取り、裏を取りに出かけてゆく。

　ところが、これが悉く外れ。これが一度や二度なら、まあ我慢できるが、四回である。
結局自分達は、艶笑話を聞いただけなのか？俺の仕事とは、こんな事か？その情けない顔が眼に浮かび、やはり何度も笑ってしまう。 結局は、苦しみを、蛇のようにするりするりと抜け出ていったおかねの一人勝ち。やっぱりここでも女性は蛇。まあ、あの「稀代の毒婦」でさえ、かなわなかったのだ。おかねの天衣無縫さは筋金入り。こちらの邪推も、警官側の思惑も、ひとたまりもなく跳ね返されても無理はない。実はおかね自体に何らかの存念があり、最後に「にやり」とでも笑ったのなら、全く反対の読後感だったろうが、邪気のない天衣無縫、つまりは何も持たない者が、権力や何やら持っている者達を蹴飛ばしてしまう成り行きは、やっぱり痛快以外のなにものでもない。

　だから、私は、笑うしかない。
本当は怒る話なのに。

「天衣無縫」他「東京南町奉行」「斬奸状は馬車に乗って」「首の座」「明治忠臣蔵」「明治暗黒星」収録。時々登場する有名人も、お見逃しなく。

​
【中古】 明治忠臣蔵 / 山田 風太郎 / 河出書房新社 [文庫]【宅配便出荷】​​もったいない本舗　おまとめ店​