カテゴリ:V 【過去ログ 迫田さおり選手 その1】
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これまでハリルジャパンはアジア予選を通じて対戦相手や戦況、自分たちの状態に合わせて臨機応変に戦うスタイルを磨いてきたが、ロシア ワールドカップ出場を決めた8月31日のオーストラリア戦は、まさに今予選の集大成とも言うべき内容だった。 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は今夏、ロシアまで足を運び、オーストラリアが出場したFIFAコンフェデレーションズカップを視察。約2カ月かけて相手を徹底的に分析した上、万全を期して27人の選手を招集すると、相手の弱点を突くのに相応しく、コンディションの良い選手を見極めた。 こうして選ばれたのが、予選初先発となる22歳の浅野拓磨、スペインで結果を出している乾貴士、代表キャップ3試合目となる21歳の井手口陽介といった顔ぶれだった。 ポゼッション志向の強いオーストラリアに対し、3ボランチがしっかりと中央を締めてオーストラリアの2シャドーへのパスコースを封鎖。サイドではオーストラリアのウイングバックを浅野と乾のウイングと酒井宏樹と長友佑都のサイドバックが挟み込む。 指揮官はかつて「プレスを仕掛ける位置は3段階ある」と語っていたが、この日のプレスは今予選で最も高い位置から仕掛け、相手GKのキックミスを誘う場面もあった。球際での勝負、いわゆる“デュエル”も申し分のない出来で、ゲーム終盤になっても浅野や山口蛍がボールを回収しようと肉弾戦を繰り広げた。 ボール支配率は日本の38.4パーセントに対してオーストラリアは61.6パーセント。一方、シュート数は日本の15本に対してオーストラリアは4本だった。ポゼッション率を高めなくてもゲームの主導権は握れるということを改めて示してみせたわけだ。 同じオーストラリアが相手でも、本田圭佑を1トップで起用した16年10月のアウェイゲームとは違う。同じく4-3-3を採用したと言っても、今野泰幸と香川真司をインサイドハーフに並べた17年3月に行われたUAE(アラブ首長国連邦)戦とも違う――。抜てきされた浅野や井手口がゴールを決めたのは結果論だとしても、戦略、戦術が見事にハマった試合という点で、アジア予選の集大成だった。
「相手によってフォーメーションも変えるし、やり方も変える。プレッシャーの掛け方を一つ取っても、毎試合違うやり方をする。どんな相手にも臨機応変に、柔軟に対応していくサッカーだということが、はっきりと見えてきましたね」 歴代の日本代表にはそれぞれ理想のスタイルがあり、それぞれに「ポゼッションサッカー」、「フラット3」、「接近・展開・連続」といった分かりやすいキーワードが存在した。一方、ハリルジャパンの場合、相手に合わせて戦い方を変えるから、分かりやすいキーワードが入り込む余地がない。 だから、分かりにくいかもしれないが、あるJリーグのチームを想像すれば、ハリルホジッチ監督が思い描くサッカーがイメージしやすくなるという。ハリルホジッチ監督を招聘した張本人で、昨年12月までナショナルチームダイレクターとして指揮官をサポートした霜田正浩氏は語る。 「鹿島アントラーズですね。鹿島は理想のサッカースタイルを追求するのではなく、勝つサッカーをやろうということを念頭に置いて、あれだけの数のタイトルを獲っている。鹿島のしたたかさ、勝負強さ、割り切り、臨機応変さというのは、ヴァイッドの目指すサッカーと共通するものがある」 これまでの日本代表は、アジアではボールを保持して押し込むことができたが、世界との対戦では押し込まれる機会が多くなり、軌道修正を余儀なくされてきた。それゆえに予選を勝ち抜くためのサッカーと、本大会用の2つのスタイルを準備すべきという論調が沸き起こったこともある。 だが、ハリルジャパンはアジアでもポゼッションにまったく固執しておらず、現状の戦い方の延長線上に世界との戦いがある。その点に、コンフェデレーションズカップで善戦したオーストラリアに完勝した今回の一戦が、「世界への第一歩」になるという理由がある。 「個人的な感想としては、ハリルホジッチ監督は強い相手とやる時のほうが戦術的に面白いことをするんじゃないか、っていう期待を持っています」 では、アジアを勝ち抜いた今、ワールドカップに向けて高めるべきテーマは何か――。
オーストラリア戦で見せた高いインテンシティのプレーを、世界を相手に90分続けるのは難しい。状況に応じて相手にボールを持たせてカウンターを狙い、時にボールをキープしてゲームを落ち着かせる。また、ハイプレスを敢行してボールを奪い、ショートカウンターを仕掛けてゲームを決める――。 2012年にポーランドで対戦したブラジルや、14年ブラジル・ワールドカップで対戦したコロンビアのようなしたたかさ、試合巧者のゲーム運びを身につけたい。 ディフェンスリーダーで近年の代表チームを牽引してきた吉田麻也は「監督がよく縦へのサッカーって言うけれど、その使い方ももう少しうまくならないといけないし、90分間ずっと繰り返すのは難しいので、行く時と行かない時とでゲームをコントロールしなければいけない。もちろん、僕らが押し込まれる時間帯や対戦相手も想定して、そういう良い相手と残り1年で対戦できたらいい」と言う。そして1トップを張る大迫勇也も「ゲームをコントロールしないといけないと思う。メリハリをもっと付けたい」と課題を挙げた。 アジア2次予選、最終予選を終え、ハリルホジッチ監督は選手たちに「いよいよ第3章に入る」と宣言した。チームの戦術的な幅は広がり、久保裕也、浅野、井手口らリオデジャネイロ・オリンピック世代が台頭したことで戦力の厚みも生まれた。いよいよ挑む世界の舞台で、ハリルジャパンはいかなる戦いを見せてくれるのだろうか。 ワールドカップ開幕まで残り約9カ月。監督の指示を忠実に実行できるようになったチームに求められるのは、自分たちで考えてピッチ内でアドリブを加えることだ。いわば「守・破・離」の「離」の段階。強豪とのテストマッチの中で、世界と対峙するチーム像がより鮮明に見えることに期待したい。 文=飯尾篤史 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.09.02 05:01:37
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