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記事 米国政治 伝説の記者が暴くトランプのヤバすぎる内実 新著でホワイトハウス奥の院の混乱を暴露 高橋 浩祐 2018/09/06 11:50 © 東洋経済オンライン
今、トランプは、この本と、NYタイムズ紙に寄稿された ホワイトハウスの奥の院ではいったい何が起きているのだろうか(写真:REUTERS/Carlos Barria) アメリカのドナルド・トランプ大統領のことを、ジム・マティス国防長官は「小学5、6年生並みの振る舞いと理解力」の持ち主と憤慨する一方、ジョン・ケリー大統領首席補佐官は「彼は馬鹿だ」と陰口を叩く――。 1970年代のウォーターゲート事件をめぐる調査報道で、リチャード・ニクソン大統領を退陣に追い込んだワシントンポスト紙のカール・バーンスタインとボブ・ウッドワードの両記者。この事件を描いたノンフィクション『All the President’s Men』(大統領の男たち)は映画化され、アカデミー賞4部門を受賞する名作となった。邦題は『大統領の陰謀』で知られる。 名優ロバート・レッドフォードが扮した、そのウッドワード氏(現・ワシントンポスト紙編集局次長)が、9月11日に新著『Fear: Trump in the White House』(仮訳:恐怖─ホワイトハウスの中のトランプ)」を出版する。その本では、安全保障をめぐるトランプ大統領の無知や衝動的な性格、気に入らない部下を怒鳴り散らすワンマンぶりを暴露、さらにはホワイトハウス内での支離滅裂な政策決定過程をあらわにしている。 トランプ政権の「神経衰弱」 この本の刊行に先立ち、ワシントンポスト紙は9月4日、「ボブ・ウッドワードの新著、トランプ政権の’神経衰弱’を暴く」との見出しの記事で、内容を紹介した。 これを受け、トランプ大統領やマティス国防長官、ケリー大統領首席補佐官、ホワイトハウスのサラ・サンダース報道官は早速、一斉に「ウッドワードは民主党の工作員か?」「作り話だ」などと反論。アメリカ稀代の調査報道記者が書いた内幕本だけに、政権内でも事態を深刻に受け止めている様子をうかがわせている。 ウッドワード氏は、何百時間にも及ぶ関係者へのインタビューや会合のメモ、日記、政府文書など、自らが直接入手した一次情報の事実に基づいて書いたと自信満々だ。トランプ政権の危うさを改めて世に問うた形で、内外で波紋が広がりそうだ。 ワシントンポスト紙の記事によると、この新著のメインテーマは、「大統領個人と彼が率いる国の双方のために、大統領の衝動を抑えて惨事を防ごうと、ホワイトハウスの奥の院で繰り広げられている数々の権謀術数」についてだ。 大統領側近が大統領執務室の机から政府文書を意図的に引き抜き、大統領に見せないようにしたり、署名させたりしないようにしている。ウッドワード氏はこれを「行政クーデター」、そして、ホワイトハウスの神経衰弱(ノイローゼ)と呼んでいる。 例えば、大統領は2017年春、北米自由貿易協定(NAFTA)から撤退することに躍起になっていた。ホワイトハウスの秘書官だったロブ・ポーター氏は大統領の指示を受け、撤退通知書を作成。しかし、アメリカのNAFTA撤退は経済外交関係で危機を招きかねないことから、国家経済会議(NEC)委員長を務めていたゲイリー・コーン氏と相談のうえ、大統領の机から通知書を抜き去ったという。 また、コーン氏は、大統領が韓国との自由貿易協定を正式に離脱するために署名する予定だった公式文書を、大統領の机から抜き取った。大統領は、文書がなくなっていることに気づかなかったという。 世界情勢をめぐる知識の欠如 世界情勢をめぐる大統領の好奇心や知識の欠如に加え、大統領が軍事・情報当局幹部の主流な見方を軽視することによって、いかにして大統領の外交安全保障チームが動揺しているかを、ウッドワード氏は新著で延々と述べているという。 例えば、大統領は2018年1月19日の国家安全保障会議(NSC)で、北朝鮮からのミサイル発射を7秒で探知できる特殊部隊を含む、在韓米軍の重要性をまったく軽視。なぜアメリカ政府が朝鮮半島で資源を費やしているかと質問したという。 これに対し、マティス国防長官は「第3次世界大戦を防ぐために、我々は行っています」と答えた。 ワシントンポスト紙によると、ウッドワード氏は、トランプ大統領が会議場所から去ると、「マティスは極めて憤慨して動揺していた。そして、側近に大統領は、小学5、6年生の振る舞いと理解力しか持ちえていないと述べた」と説明している。 対北朝鮮政策の実情 トランプ大統領が北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長を国連総会で「リトル・ロケットマン」とののしり、金委員長が大統領を「狂った老いぼれ」と言い返す。本の中では、そんな米朝の緊張が一気に高まった2017年秋の舞台裏も描かれている。2017年後半は、2人の常軌を逸した罵倒合戦が日に日にエスカレートし、日本の一部の「専門家」の間でも、アメリカによる北朝鮮への先制攻撃は避けられないと主張する人々が少なからずいた。では、実情はどうだったのか。 ウッドワード氏によると、大統領は秘書官のポーター氏に対し、事態を金正恩氏との「意志の競争(a contest of wills)」ととらえ、「これは、すべて指導者対指導者という話だ。男と男の対決だ。私と金の対決だ」と述べたという。要は、大統領も核攻撃を辞さない軍事オプションをちらつかせながらも、内実は「はったり合戦」だったことが描かれている。これは筆者が昨年春先以来、東洋経済オンラインに何度も書いた内容と一致する(例えば、「トランプvs金正恩は『脅し合い』にすぎない」)。 このほか、シリアのバッシャール・アサド大統領が2017年4月に民間人への化学兵器攻撃を行うと、マティス国防長官に「奴を殺せ!」などと電話で指示。マティス氏は「直ちに取り掛かります」と述べたものの、電話を切った後に側近に「我々はそのようなことはしない。もっと慎重な姿勢で臨む」と述べたという。これで結局、通常の空爆におさまったという。 首席戦略官を務めたスティーブ・バノン氏と、トランプ氏の長女で大統領補佐官のイヴァンカ氏の激しい口論のシーンも描かれている。大統領首席補佐官だったラインス・プリーバス氏を介さずに、仕事を遂行するイヴァンカ氏に対し、「君はスタッフの1人だ」などとバノン氏は怒鳴り散らした。これに対し、イヴァンカ氏は「私は決してスタッフではない。長女だ!」などと反論したという。 トランプ政権の中心メンバーの間では、こうした緊張が沸点に達しており、プリーバス氏は、彼らの関係についてライバルではなく、「天敵」同士と説明したという。 「ヘビ、ネズミ、ハヤブサ、サメ、アザラシを壁のない動物園に入れたならば、事態は悪化し、血みどろになる」とプリーバス氏は述べたとされる。 電話での直接対決 トランプ大統領とウッドワード氏は2018年8月14日に電話で「直接対決」した。ワシントンポスト紙が9月4日に公開した、その録音音声も生々しい。 ウッドワード氏は、大統領に直接取材をするために、大統領顧問のケリーアン・コンウェイ氏や、ホワイトハウス広報部長だったホープ・ヒックス氏、ラジ・シャー副報道官、リンゼー・グラム上院議員ら6〜7人に接触したことを明らかにした。だが、大統領への事前の直接取材は叶わなかった。 これに対し、大統領は「ネガティブな本になるんだね」などと言いながら、事態を受け止め、雇用の回復や北大西洋条約機構(NATO)加盟国への防衛費負担増といった自らの業績を必死にアピールしている。本の中では、マティス国防長官が、安全保障を議題にしていても、大統領はすぐに移民やニュースメディアの話題に脱線するきらいがあると指摘しているが、そうした脱線傾向は、ウッドワード氏との電話の中でも十分にあらわになっている。 トランプ大統領の常軌を逸した言動や、マティス国防長官とケリー大統領首席補佐官の辞任観測はこれまでも至る場で指摘されてきたが、この本はトランプ政権の危うさを改めて世に示した格好だ。 大統領をはじめ、政権幹部は早速、「でっち上げの作り話」などと反論し、ウッドワード氏とその本の信用を貶めることに躍起になっている。しかし、ウォーターゲート事件をめぐる調査報道でも、ウッドワード氏は当初からホワイトハウスに報道を一貫して否定されていた。 ベテランの調査報道記者による著作なだけに、事実確認に抜かりはないと推測できる。本の出版を契機に、政権幹部間の相互不信が高まり、さまざまな「大統領の男たち」がさらにうごめき始めるかもしれない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.09.08 06:00:11
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