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再出発日記

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2021年01月10日
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「文明の生態史観」梅棹忠夫 中公文庫
大晦日に、蟲文庫という所で1974年初版のこの古い文庫本を見つけた。懐かしくて持ち帰った。

高校生の時、本書を読んで、世界を、地理と歴史との丸ごとで俯瞰的に見渡す「手がかり」を得た気になった。大学で歴史を学びたいと思っていた私に、本書はこの方向でやってみたらどうか?と思わせる魅力的な書だった。何故歴史を学ぶのか。過去に学ばない者は未来を語れない。日本の過去と未来を知ってこれからの日本に役立ちたかった。そこだけは、昔も今も変わりがない。ところが、大学は教養学部の成績で専攻科が決まる。私の成績では1番人気の国史は到底手が届かない。結果、新設の研究室に入らざるを得なかった。

その研究室の教授の概論で、たまたま「文明の生態史観」が俎上にあげられた。なんと生態史観発表直後にその根本的な欠陥を批判した人々がいたらしい。その論旨の明確さに、私は初めて生態史観に疑問を持ったのである。そしていま、文庫を読み返してびっくりしたのだが、本人は74年段階で批判を受け入れているのである。全ての論文の前に本人の「解説」が載っていて、1955年に発表した時に57年に既に加藤周一から批判が出ていることを本人が書いているのだ。その後、竹内好、上山春平からも出ている、と書いている。梅棹忠夫は、「今となっては、わたしの思想の出発点というにすぎず、現在の考えをそのまましめすものというわけではない」と堂々と自論を修正したことを認めているのである(!!)。しかし、当然批判論文の内容までは述べていないし、本格的総合的な修正した各論も書いていない。高校生の私は文庫の「わかりやすい」世界史モデルをそのまま信奉して大学生になったといわけだ。今読めば、梅棹さんは言い訳を書いているのに過ぎない。

世界を第一地域、第二地域に分けて、後続の日本と西ヨーロッパ諸国が距離があるのにも関わらず同様の「発展」をしたのを、生態学的な視点で説明できるとする論理は、あまりにも乱暴なラフスケッチだった。そのせいか、米国・西欧のように発展する日本は当然であり、中国・アジアを下に見る風潮も(本人の意図ではないが)生まれた。

本書で指摘された歴史的事実は、そんなふうに思える事実はたくさんある。だから、生態史観は74年の後も版を重ねて今に及ぶ。解説子は「東西の座標軸しかなかった世界史の見方に革新的な視点を与えた」と絶賛するが、それが持つ悪影響は当然語らない。社会・歴史を自然科学的方法で説明することは慎重でなければならない。今でも教科書的な世界史ではなく社会学史を取り入れた『銃・病原菌・鉄』の先鞭を取ったと評価する者もいる。2つの書は肌の色が似通った全くの別人なのであるが、そんなふうな単純化で、直ぐにわかったような気になる人々が後を絶たない。現在我々は、気象予報ならばかなりの確率で明日を予測することができる。けれども、我々は複雑な要素が絡み合う社会予報は未だ出来ないのである。コロナ禍の明日の感染者数さえ、誰も予測できない。

日本人は日本文化論が好きだ。文明の生態史観は、不幸にも上のように読まれて消費されてゆき、今では殆ど忘れられている。その前後に現れた加藤周一「雑種文化論」では、加藤周一はその名称は一切使わず各論になる「日本文学史序説」を経て「日本文化における時間と空間」に結節させた。また、その後現れた丸山真男の「古層論」も、発表後40年以上経っても、未だ通用している。私はモデルは必要だと思う。モデル化を経ないと、なかなか歴史から未来を見渡せないからだ。日本文化モデルは、長い間の批判に耐えうるものだけを、読むべきだと今は思う。

本書に出会って、43年。
奇しくも私を日本文化論への長い旅に誘う悪魔の役割を果たした本書に再会し、懐かしい女性に出逢ったような想いをした。





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最終更新日  2021年01月10日 20時52分51秒
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