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2021年04月13日
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「トガニ 幼き瞳の告発」孔枝泳(コン・ジヨン)蓮池薫 訳 新潮社

2005年光州市で起きた聴覚障害者特殊学校での長期性的暴行事件を小説化したものです。SNSでレビューを読んで、「あの」光州市でそんな非人権的な事件が起きたことがショックであり、「本質」を確かめたくて紐解いた。

小説なので、舞台も海沿いの霧津市になっているし、登場人物の名前は当然のこと、人数も省略されている。でも大筋では事実通りに話が進み、小説内では加害者の校長含む教職員は、極めて軽い判決で結審して終わっている。ただ、著者の孔枝泳氏自身は80年代の民主化闘争を闘った若者だったらしく、負けたままの小説を描くはずが無い。彼らは負けたのだろうか?小説の中でソ・ユジンは霧津市を離れた主人公カン・インホに宛てたメールでそうではないことを書いていた。

裁判の後、「事件の前と後で1番変わったこと」を聞かれて、被害者のひとりの子供がこんなしっかりしたことを手話で答えていたらしい。
「ぼくたちもみんなと同じように大事な存在なんだと気づいた(279p)」
それは人権という観点から、とっても大切な言葉である。

軍事独裁政権を終わらせるキッカケとなった光州事件(韓国では5.18民主化運動とは呼ばれている。ホントは「事件」なんかじゃなかったから)、軍事独裁政権を終わらせた87年抗争、その結果、韓国は人権の尊重を国の方針にした。全国各地に人権センターを建てたのも、その一つの現れだろう。そのことを、2018年私は映画に刺激されて光州市ロケ地巡りをしてヒシヒシと感じた。

小説を読んで、それらの雰囲気が少しずつ残っているのを確認した。何よりも、主人公カン・インホと共に事件にかかわることになったソ・ユジンの勤め先が「人権運動センター」であり、図らずも此処が運動を最後まで指導することになる。2018年、私は光州市郊外にある駅のエントランスで、人権啓発のわりと大規模なパネル展示と、40ページオールカラーの光州市人権センター発行の無料人権解説パンフに出会った。少なくとも光州市は本気なんだと思っていた。光州市警察署は「市民にやさしい警官」の壁絵に囲まれていた。

小説を読んで、それらはたゆまない市民の運動なくしては掴めないものだということが、それを市民が「自覚して」いることが、ひしひしとわかった。
「韓国がそんなにいい国じゃないってことはわかっていたけど、ここまでだれも彼も同じとは思っていなかった。これからはたいへんな戦いになりそう。教育庁、市役所、みんな同じよ。霧津女子高や霧津高の同窓生か、そうでなければ、小学校の友達だとか、妻の甥っ子、でなければ栄光第一教会‥‥インホ、40億(約4億円)よ。あの人たちはわたしたちの血税を1年に40億ウォンも使いながらそんなことをしている」(121p)

韓国の地方都市を代表する「霧津市」において、複数の子供たちの明確で具体的な証言がありながら、教育長も警察も(少女を診察した)医師も弁護士も教会も、卑劣な特殊学校校長や副校長、生活指導教師に味方する。判決は被告人に有利に結審する。

目に見える建物や法律は数十年で変わるけど、目に見えない因習や地縁血縁金縁は簡単には変わらない。真実が見えない霧の中の街の風景が、小説全体を覆っている。これは決して抽象的な描写ではなくて、韓国南部を旅するとしばしば出くわす自然現象である。濃霧は時に10時ごろまで凡ゆるものを見にくくさせていた。

このバッドラストと見える(僅かに希望を見出す)終わり方が、俳優コン・ユを動かし、映画が韓国社会を動かし、法律改正、再捜査、学校の廃校へと動かしたらしい。

韓国市民は「動けば変わらせる」という成功体験を何度も、世代をまたがって持っている。この小説が韓国の「恨(ハン)」を描いたのだとしたら、珍しく小説の外で、その恨は「解かれた」。

5.18民主化運動の観光名所、日本語パンフはたくさんあったのだが、今度光州市に行った時には「トガニ法ゆかりの地と解説パンフを教えて欲しい」と観光案内で聞いてみようと思う。おそらく日本語パンフはないだろうけど、詳しく教えてくれると思う。





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最終更新日  2021年04月13日 09時23分34秒
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