テーマ:夏目漱石(54)
カテゴリ:夏目漱石
-----まず、「思い出す事など」より引用です-----
(引用開始) ようやくの事でまた病院まで帰って来た。思い出すとここで暑い朝夕(あさゆう)を送ったのももう三カ月の昔になる。その頃(ころ)は二階の廂(ひさし)から六尺に余るほどの長い葭簀(よしず)を日除(ひよけ)に差し出して、熱(ほて)りの強い縁側(えんがわ)を幾分(いくぶん)か暗くしてあった。その縁側に是公(ぜこう)から貰った楓(かえで)の盆栽(ぼんさい)と、時々人の見舞に持って来てくれる草花などを置いて、退屈も凌(しの)ぎ暑さも紛(まぎ)らしていた。向(むこう)に見える高い宿屋の物干(ものほし)に真裸(まっぱだか)の男が二人出て、日盛(ひざかり)を事ともせず、欄干(らんかん)の上を危(あぶ)なく渡ったり、または細長い横木の上にわざと仰向(あおむけ)に寝たりして、ふざけまわる様子を見て自分もいつか一度はもう一遍あんな逞(たくま)しい体格になって見たいと羨(うらや)んだ事もあった。今はすべてが過去に化してしまった。再び眼の前に現れぬと云う不慥(ふたしか)な点において、夢と同じくはかない過去である。 (引用終了) 【上記の感想】 上記は、漱石の『思い出す事など』の冒頭。 『思い出す事など』は、漱石43歳時の作物である。 著わす直前の8月下旬に、療養先の修善寺にて危篤状態になった。 体力が回復した後、当時を振り返りながら書かれたという。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009/01/28 09:22:49 PM
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