「100days100bookcovers no22」(22日目) 本橋英正 『注文の多い料理店』(源流社)
五味太郎さんの『ときどきの少年』読みたいなぁ~。Simakumaさんがいう「謎」が気になっていますが、本を読んで確認することにします。もしかしたらその前にDegutiさんが解明してくれるかも?
面白いことに21冊目がアップされた夜(「蟲文庫」に行った日)、泊った妹の家の玄関に、3箱の段ボールの荷物がありました。私が持って帰るべく積んでいたのですが、そこから五味太郎さんの絵本を引っ張り出し、懐かしく目を通しました。
東加古川に絵本専門店「子どもの本 ジオジオ」がオープンした1985年以来、店主の江草さん夫婦と親しくさせていただき、プレゼントやお年玉、お祝いやお見舞いと、子どもたちにも大人にもよく絵本を買いました。
お話しながら選ぶのが楽しかったんです。一番最初にその店を訪問したときに、壁にこんな張り紙がありました。
「本を立ち読みしてはいけません。椅子に座ってゆっくり読んでください。」
一瞬でジオジオさんが好きになったのは言うまでもありません。最近はブッククラブという絵本選書を中心に営業をしているようでしたが、今でも頑張って店を開けています。
また、兵庫県にはもう1軒、JR本山駅前で40年以上愛された小さな児童書専門店「ひつじ書房」がありましたが、2017年の年末に惜しまれながら閉店しました。大型店舗では絵本や児童書を買う気になれないのは、そんな専門店を知っているからなのなのかもしれません。
実は大人になってからの絵本との出会いは、大学の男子寮に遊びに行った時。同じ国文学の後輩の部屋に絵本が飾ってあったのに衝撃を受けました。(もしかして、その時Simakumaさんいましたか?)
さて、五味さんについては最近の新聞記事も紹介したいです。4月14日の朝日新聞に「ガキどもへ チャンスだぞ」というメッセージが載りました。
「急に学校が閉められて先の見通しも立たず、大人も子どもも心が不安定になっていると感じます。」
との記者の問いかけに、次のように答えます。
それじゃ、逆に聞くけど、コロナの前は安定してた? 居心地はよかった? 普段から感じてる不安が、コロナ問題に移行しているだけじゃないかな。
こういう時、いつも「早く元に戻ればいい」って言われがちだけど、じゃあその元は本当に充実してたの?と問うてみたい。
おれはもともと、今の学校や社会は、子どもに失礼だと思ってる。
私自身が大人の常識という陥穽に嵌まっていたことに気づいたものです。五味太郎さん、一味か七味のようにピリッと効かせていますね!
そんな箱の中のたくさんの本の中で、一冊の絵本に目が止まりました。『注文の多い料理店』、宮沢賢治が生前発行した唯一の童話集のタイトルでもあります。
現在、この絵本はいくつかの出版社から発行されているようですが、私が「ジオジオ」さんで買って姪たちにプレゼントしたものは、作:宮沢賢治 画・描き文字:本橋英正 発行所:源流社のもの。改めて表紙カバーと一体になった帯にある
「限定一部超豪華版 定価1,000,000,000,000円」
にビックリ!!
これって0がいくつあるん?何円?
と、その場にいた妹や姪たちと大騒ぎ。さていくらでしょう?
正解は1兆円です。
最近のアベ政権の税金無駄遣いにもう慣れっこになった高額のお金ですが、マスクや幽霊会社への委託よりはこの絵本のほうがよほど値打ちがあるのではないかしら?
五味さんのガキどもへのメッセージではないですが、大人から子どもへの教訓だとか、社会風刺という視点はどっかにふっとんで、(そもそもそんな意図で書いていないと思うのですが…)改めてじっくりことばを味わい、絵を楽しみました。
オノマトペ(『風の又三郎』も風の音の表現が印象的でしたね。)や言葉の繰り返しで、いとも簡単に現実から非現実の世界へ超えさせてくれます。
風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。
おまけにかぎ穴からはきよろきよろ二つの青い眼玉(めだま)がこつちをのぞいてゐます。
「うわあ。」がたがたがたがた。
「うわあ。」がたがたがたがた。
ふたりは泣き出しました。
その扉の向こうのまっくらやみのなかで
にゃあお
くわあ
ごろごろ
という声がして、それからがさがさ鳴りました。
そして再び、二人の漁師が寒さにぶるぶるふるえて、草の中に立っているのを確認したあと,もう一度「風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。
と、日常に引き戻されます。
もっとも、そんな解説は子どもたちには一切不要なのでしょう。この絵本を読んだ時、3人の姪っ子たちはとっても怖かったそうです。
白熊のような2匹の犬は山の中で泡をはいて死んでしまうし(実は最後に助けに来るのですが)、扉絵の山猫の目や牙もおどろおどろしいし…。視覚や聴覚だけでなく、風の触覚、酢や油の香りや味覚にまで訴える「西洋料理店 山猫軒」―。
玄関のガラスの開き戸には金文字で、水色のペンキ塗りの扉には黄いろな字、次の扉には赤い字で、次は黒い扉、次の扉の前のガラスの壺、次の戸の前には金ピカの香水の瓶。その扉を開いて中に入るとりっぱな青い瀬戸の塩壺が…。
いよいよ最後の扉には大きなかぎ穴が二つ、中からきょろきょろ二つの青い目玉がこちらをのぞいています。そんな7枚の扉を開けて長い廊下を進む猟師たち(こどもたち)にとって、それはそれは恐ろしかったことでしょう。
今コロナウイルスや政治や経済のあり得ない出来事が現実の世界で起こり、世界の底が抜けてしまったような気がします。『注文の多い料理店』のような世界は、空想ではなく私たちが生きている世界そのものなのかもしれません。五味太郎さんに
「これはチャンスだ」
とハッパをかけられたと、前に向かいたいものです。
ずいぶん昔、東北本線の鈍行で北に向かった時に、花巻農業高校の賢治の家(羅須地人協会)と宮沢賢治記念館を訪問し、『銀河鉄道』をイメージしながら遠野までローカル線で足を延ばしました。懐かしい思い出です。
それよりもっと北、当時の日本の最北端だった樺太にも賢治が訪れたというのはつい最近知りました。
最愛の妹トシの魂が行った場所と考え、亡くなった翌年訪れます。浜を夜通し歩き、朝の風景を『オホーツク挽歌』で「海面は朝の炭酸のためにすっかり銹びた」と詠ったそう。また、今朝の「天声人語」にも賢治が登場していたのには笑ってしまいました。
みなさんと違って気の利いたことが書けないのですが、お許しください。家に持ち帰った絵本は「寺子屋」で、こどもたちや大人たちに楽しんでもらえるといいな~。
では、SODEOKAさん、バトンを渡します。よろしくお願いします。(2020・06・22N.YAMAMOTO)
追記2024・02・01
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