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2022.07.13
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カズオ・イシグロ「遠い山なみの光」(ハヤカワ文庫)

​​ カズオ・イシグロです。いわずと知れたノーベル文学賞作家ですが、ぼくはこの人の、あまりよい読者とは言えません。我が家にはこの作家にはまっていた人がいたので、受賞以前の作品がそろっていることもあって、なんとなくそう思います。
 受賞後の「忘れられた巨人」(ハヤカワ文庫)と、人造人間というテーマがセンセーショナルだった「わたしを離さないで」(ハヤカワ文庫)を読んだ記憶はありますが、後は憶えがありません。​​

 今回、青來有一「爆心」(文春文庫)という作品を読んで、長崎の作家つながりというか、陣野俊史という批評家が、その「爆心」文庫解説だったか『戦争へ、文学へ「その後」の戦争小説論』(集英社)という評論集の中だったか、よく覚えていないのですが、「ポスト原爆文学」というくくりでこの作品をあげていたのに惹かれて読みました。まあ、大した意味はありません。
​​​ 読んだのは「遠い山なみの光」(ハヤカワ文庫)という作品で、小野寺健という人のです。2001年初版が出た本ですが、実は「女たちの遠い夏」という題で1994年ちくま文庫になっている作品の、同じ訳者による改訳だそうです。​​​
​​ 題名が変えられた経緯が、ちょっと気になりますが、カズオ・イシグロノーベル賞を受賞したのは2017年ですから、受賞とは関係なさそうです。出版社が変わったこともあるのかもしれませんが、もともとの題名は「A Pale View of Hills」です。直訳すれば「山々の淡い光景」でしょうか。​​
​​ 読み終えてみると「青白い」と訳したい気もしますが、小野寺さんが最初の題から「女たちの」を削除されていることに、訳者自身の「読み」の変化を感じて納得しました。
 ああ、それから、まあ、余計なことかもしれませんが、ノーベル賞騒ぎの中で、彼を日本文学の作家として持ち上げる雰囲気があるように思いますが、カズオ・イシグロ英語圏の作家だということは忘れない方がいいと思います。ぼくらのような読者には翻訳がないと読めない人なのです。 ​​

 で、小説はこんなふうに書きだされています。

​​ ニキ、さいごにきまった下の娘の名はべつに愛称ではない。これは、私と彼女の父親との妥協の産物だった。話は逆のようだが、日本名をつけたがったのは夫のほうで、わたしは過去を思い出したくないという身勝手な気持ちがあったのか、あくまでも英国名に固執したのである。夫はニキという名にどことなく東洋的なひびきがあると思って、さいごには賛成したのだった。(P7)​​
​ ​語り手は悦子という名の、おそらく中年の女性ですが、彼女が敗戦直後の長崎で成長し、少なくとも二度結婚し、それぞれの夫との間に一人づつの子どもを生み、この小説を語っている現在はイギリスに居住しています。​
​​​​ ただ、悦子の一度目の結婚の破綻、渡英して二度めの結婚という、読者としてはかなり興味を惹かれる、そのあたりの経緯とか、たとえば、はたして、悦子というは彼女がこの世に生を受けたときにつけられた名前なのかどうか、誕生日は何年の何月何日だったのか、少なくとも、彼女の姓名の「姓」、つまりが​​​​悦子自身の親や家族については、ただの一度も語られないのがこの作品の特徴でした。
​​​​ 小説は、二度目の結婚のに先立たれ、イギリスの田舎町で暮らしている悦子が、同居していた長女景子を自室での首つり自殺で亡くし、その葬儀の後、葬儀に参列しなかった次女ニキが帰宅し、数日間の滞在ののちロンドンに帰って行ったという場面から語り始められています。​​​​
​ 今ここであまり景子のことを書こうとは思わない。そんなことをしても何の慰めにもなりはしないから。彼女の話を持ち出したのは、ニキがこの四月に来た事情を明らかにするためと、彼女が滞在しているあいだに、これだけ年月がたった今になって、また佐知子のことを思い出したからである。私には、ついに佐知子がよくわからなかった。というより、わたしたちのつきあいは、もう遠い昔になったある夏の、せいぜい数週間のことにすぎなかったのだ。(P10)​​
​ ​​​​ここから、二人の娘がまだこの世にいない頃の遠い記憶として語られるのは、一度目の結婚をした当時の悦子が、長崎市の東部の原爆のために焦土と化していた土地に建てられたコンクリート製のアパートで暮らしていたころ、近所の人として出会った佐知子と万里子という親子連れの話です。​​​​
 ​佐知子が現われたときの騒ぎを考えると、この家をよく眺めていたのは、わたし一人ではなかったのだ。ある日この家で男が二人仕事をしているのが見えると、あれは市がよこした作業員ではないのかという噂がたって、わたしも何度か、その二人が水溜まりだらけの空地を歩いてゆく姿を見かけた。
 そろそろ夏になる頃だった―そのころわたしは妊娠三ヵ月か四ヵ月だった―わたしはその白塗りで傷だらけの大きなアメリカ車が大きく揺れながら、川に向かって空地を走ってゆくのをはじめて見たのだった。もう日が暮れるころで、その家の向こうにしずみかけている夕日があたると、一瞬キラリと車体が光った。(P12)
​​​​​​​​​​​ ​荒れるままに放置されていた誰も住まない一軒家に母と幼い娘の親子連れが​​越してきます。新婚で妊娠したばかりの主婦だった悦子の興味がその二人の様子に惹きつけられていきます。1950年代の後半、季節夏の始めで、場所長崎の市街を外れた爆心地のあたりです。
 小説は、彼女その夏、その母子と知り合いになり、やがて、別れてしまう経緯の記憶をたどりながら、おそらく、自分だけのためにノートに書きつけていった、日記風のお話でした。
 戦後復興が始まったばかりの地方都市に暮らしながら、恋人(?)であるアメリカ兵を頼ってこの町、あるいは、日本からの脱出を夢見ている​佐知子と、幼い娘万里子という母子の記憶を、20年(?)後、日本から連れてきた娘景子の自殺に遭遇した悦子が、一人暮らしをしている異国の田舎町で書き綴っていきます。
 カズオ・イシグロは彼女の行為でなにを描こうとしているのか、訝しく戸惑いながら読みすすめていて、ギョッとする記述に行き当たりました。もちろん、悦子の記憶の記述です。​​​​​​​​​​​

 記憶というのは、たしかに当てにならないものだ。思い出すときの事情しだいで、ひどく彩りが変わってしまうことはめずらしくなくて、わたしが語ってきた思い出の中にも、そういうところがあるにちがいない。たとえば、あの日心にうかんだやりきれないイメージが、果てしなくつづく空白な時間にわたしの心を去来していた無数の白日夢よりもはるかに鮮烈なまったく別のものになったのは、あの日の午後に虫が知らせたせいだと考えたくなる。どう考えても、あれはそれほどのことではなかった。木からぶらさげられていた小さな女の子の悲劇、これはそれまでの連続幼児殺害事件以上に悲惨なもので、近所の人びともショックを忘れられずにいたのだから、あの夏、こういうイメージに悩まされたのはわたし一人のはずはなかった。(P221~P222)
​​​​​ ​日記の終盤です。佐知子万里子のことを思い出していた記憶の中に木からぶらさげられていた小さな女の子のイメージが呼び起こされています。前後に、こういう出来事があったという記述はありません。ぼくが詠み損じているのでなければ、このイメージの記述は唐突です。
​ 可能性は二つかなと思いました。一つはその当時そんな事件が実際にあったが、具体的には記さなかった。もう一つは、今現在の(20年後)の意識が記憶に紛れ込んでいるが、本人は気づいていない。いずれにしても謎ですが、悦子に対する読み手としての「疑惑」(笑)は一気に深まりました。​
 「このひとにはなにかあるな!?」
​​​​ まあ、そんな感じです。作家が顔を出したと思いました。​​​思い切った生き方をしてきた女性の、自らの人生に対する、家族にも、もちろん他人にも言えない苦悩と、そこからの再出発の契機を描いているという読み方が普通かもしれませんね。
 しかし、ぼく「凄い」と思ったのは、自分の意識そのものが意識を捏造する中に、人間の生の姿を描いているのではないかというところでした。
 ぼくがこだわっている記憶の謎以外に、実は悦子が自分自身については何も語っていないというのが、この手記というか、日記の正体なのですが、そのあたりにも、この作品のわからなさという面白さが潜んでいるのではないでしょうか。
 ひさびさに読みごたえを感じる作品でした。やっぱりノーベル賞ですね(笑)
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最終更新日  2023.05.24 23:40:15
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