日本を飛び出そうと決意したTN君は長崎に留学し、さらに江戸に遊学し、さらに単身大久保利通に自分を売り込んでフランス留学を勝ち取ります。長崎・江戸では得るものは少なかったけれども、しかし長崎ではTN君は坂本龍馬に出会う。
龍馬はそのとき倒幕のために薩長連合に奔走していた。しかしTN君のちに知るのであるが、龍馬の本心は薩長に勝たせたくなかった。次は大政奉還を進めていく。西郷の武力倒幕という方針とぼぼ同時に、「船中八策」の方針で土佐藩が動き出す。すなわち『一、大政奉還、二、上下議政局、三、人材登用、四、外国交際、五、無窮の大典(憲法)の制定、六、七、陸海軍、八、財政問題』である。基本的に勝海舟の師匠である横井小楠「国是七条」「国是十二条」と内容は基本的に重なっている。このままの構想で動き出せば、明治という時代は相当変わっていただろう。しかしこの直後龍馬は暗殺される。八策は単なる大政奉還策に矮小化されていく。そして武力倒幕は実施される。
この「伝記」では龍馬の日本未来論を聞き、大いに刺激を受けたと書かれてある
。「現実的な人間より夢を見る人間のほうが鋭いとはおかしなものだ」幸徳秋水の「兆民先生」はTN君の龍馬への気持ちを次のように書いてある。「彼を見てなんとなくエラキ人なりと信ぜるがゆえに、平生人に屈せざる予も」タバコの使いも喜んで行った、と。秋水はいう。「奇なるかな。坂本龍馬君を崇拝したる当時の一少年は他日第二の坂本君たらんとしたりき。」自由党改進党の大同団結運動に乗り出し、藩閥政治を滅ぼそうとしたのは「先生が畢生の事業」であった。「而して坂本君は成功せり。先生は失敗せり。成功のかかるところ、天か、はた人か」。
今日のNHKの憲法の議論を見る限りでは、共産、社民、民主の「大同団結」は可能のようには思うのではあるが、「現実は難しい」という声も聞こえてきそうだ。
もちろん、「大同団結」の内容は政党の団結に求める必要はない。憲法論議に関していえば、「政党団結」以上に「国民団結」のほうがはるかに大切ではある。100年以上前、どこで「成功」して、どこで「失敗」したのか。その原因は「天」か「人」か。もし現実の行き着く先が、みんなが望んでいる世の中ではないのなら、TN君同様「夢」を描くことは大切だろう。