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再出発日記

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2020年01月03日
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テーマ:本日の1冊(3684)

『銀河鉄道の父』門井慶喜 講談社

30年近く前、初めて賢治の故郷・花巻を旅したとき、最初に尋ねたのは賢治の生家だった。写真を撮っていると、木戸を開けて背の高いおじいさんが出てきた。一目で賢治の弟の宮沢清六さんだと分かった(のっぺりとした面長の顔で、賢治の面影があった)。
「何をしているのですか?」
「‥‥(すみません)」
「何処から来たのですか?」
「岡山県です」怖かった。
でも写真を撮っているのを咎めることもなく、
「この道を真っ直ぐ行って左に曲がると、羅須地人協会の跡があるから行ってみると良い」と言ってくれた。
と、いうことをこの小説を読んでありありと思い出した。清六さんは賢治の父、政次郎に瓜二つだったのかものかもしれない。穏やかで物事を全て見通して、しかも厳しい。(清六さんの本については「兄のトランク(ちくま文庫)」を2013年11月に書評した)

父親から見た長男・賢治像。
だからか、中学時代のヤンチャも、入院の時の初恋も、農学校時代の友情も、この小説には一切出てこない。でも知らなかったことも出てきた。人造宝石は聞いたことがあったが、製飴工場経営を夢想していたなんて初めて知った。父親からしたら、穀潰しのニートにしか見えなかったかもしれない。もとより、にわかファンならばいざ知らず、賢治ファンならば賢治が聖人君子ではないことは周知のことである。賢治も自覚している。だからこそ「おれはひとりの修羅なのだ」と謳ったのだ。そして妹のトシだけには見えていた。賢治の才能が。同時にその純粋性が天才なのだということも、トシともに私たちも知っている。ハッキリわかっていなかったのは、やはり政次郎なのだろう。でも、政次郎は私たちには及びもつかないほどに息子を愛していた。生涯かけて賢治を支援したのは確かなのだから、愛していたのはやはり小説的フィクションではなく真実なのだろうと思う。

写真を撮っていた時、生垣の向こうのあの二階で賢治は最期を迎えたのだろうか、と想像していた(実際は戦災で焼けたらしい)。最期のとき、忘れられないやりとりがある。父親に遺言は無いか、と聞かれて賢治は「法華経訳本を一千部刷ってみんなに渡して欲しい」と伝える。それを聞いて政次郎は
「えらいやつだ、お前は」
と云ったというのだ。
賢治は清六さんに
「おらもとうとう、お父さんに、ほめられたもな」
と呟いたという。
この最後のやりとりは、小説でも私の知っている通りに描かれる。私は、小学校の時に「伝記宮沢賢治」を読んで以来40数年間ずっと思っていた。賢治にとって、父親とはそれほどまでに「大きな壁」だったのか?と。
ところが、である。小説では、政次郎は(嘘だ)と心の中で抗議する。(とうとうどころの話ではない。これまで何度ほめたことか)。ここが、直木賞を獲ったこの小説の肝である。最初から壁なんてなかった。父親はいつでもお前(賢治)を認めていたし、愛していたんだ、と。それが父親なんだ、と。
私は思う。それは政次郎さん、あなたの思い込みです。初めての童話集を褒めたのは、貴方の夢の中だったんじゃないですか?賢治がどうして『春と修羅』出版に関しては、貴方の援助ではなく、知人からの借金で出版したのか。トシとの最期のやり取りは、アレはあれで真実だった。でも貴方は必ず横槍を入れるから貴方の知らない所で無理して出版したのです。その他いろいろ。賢治にとって、貴方はずっと「怖い」存在だったんです。最期の最期に法華経の頒布に貴方は賛成した。それは賢治にとって、無常の喜びだったはずです。「いい気持ちだ」それが賢治の最期の言葉でした。父と子は、古今東西こういう関係を持つのかもしれない。







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最終更新日  2020年01月03日 08時06分36秒
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