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カテゴリ:読書フィクション(12~)
「愛憎の檻 獄医立花登手控え(3)」藤沢周平 文春文庫 藤沢周平は海外ミステリのファンということで知られている。獄医者という、犯罪者を取り締まる側にも被害者にもならぬ、人間として接せざるを得ない立場に主人公を置くという秀逸な設定は、海外ミステリから題材を採ったのではないかと当たりをつけていろいろ検索した。見つけ切らなかった(最近の「プリズン・ドクター」という海外ドラマはある)。70年代までのミステリで、そういう小説が有ればぜひぜひ教えてもらいたい。 違う設定で考えると、日本の時代小説にはお手本がある。山本周五郎「赤ひげ」である。底辺にいる市井の人々と、修行中の医者との組み合わせである。ただし、立花登には赤ひげはいない。ほとんど仁術は行わない。立花登は、弱い者の立場に立つ普通の医者であり、たまたま柔術の達人なので、危ない橋を自ら渡るのである。 お陰で、本書には6篇もの短編があるが、全てあっという間に解決している。文春文庫版の表紙にはそのうちの一編「片割れ」の一場面が描かれているので少し紹介すると‥‥。 登の獄医の非番の日、叔父夫婦が出かけているので羽根を伸ばしていると、急患がやってくる。見るからに人相の悪い男の刀傷の手当だった。その後、登は牢獄で破傷風の男の手当てをする。見ると同じような刀傷で日にちも一致しているし、男の片割れは今は逃走中だという。だとすると、人相を見た登と従姉妹のおちえの身が危ない。登はあの手この手を使い、男の片割れを割り出す。襲ってきた片割れと登は対決をするのだが、思いもかけない事実が‥‥。 表紙の右側にいる娘がおちえである。いっときは不良娘とつるんだり、叔母に習って登を呼び捨てにしたり、どうしようもない小娘だと登も思っていたのだが、1巻目で危機一髪を救って以降かなりしおらしくなる。表紙のように登の指示に従って湯桶や焼酎を持ってくるなど、前は考えられなかった。未だに登は小娘と思っているが、ふと大人の(美人の)顔を見せたりする。この辺りがエンタメ藤沢周平の上手いところ。 犯罪者にはそれぞれの人生があり、藤沢周平は行間にそれらを埋め込む。蓋し、何度読んでも退屈しないのは其の為である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021年10月18日 15時45分17秒
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