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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2020.02.13
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​​​​​藤森照信「人類と建築の歴史」(ちくまプリマー新書)

 筑摩書房が今年(2005年)のはじめから出し始めた「ちくまプリマー新書」というシリーズがある。中学生に狙いをつけている感じだが、小学校の高学年ぐらいから読むことが出来る。特徴は「漢字」にルビを振っているところにある。
 じゃあ、高校生にはやさしすぎるかというと、とんでもない。むしろ大人が読めといいたくなる内容なのだ。藤森照信「人類と建築の歴史」(ちくまプリマー新書)を読んで特にそう思った。
 ​​​
人類がマンモスを食っていた時代から説き起こし、現代建築まで射程が届いている書き方は流石、建築探偵と言いたくなるが、ポイントは人類が初めて建物を作り始めた時代を建築史のプロの目で見ているところだ。
 マンモス狩りから麦や米の文化に移り変わっていく人類史の中で生まれてきた「建築」。狩猟から農耕への移行の必然性を経済史的な観点から捉えながら、文明の変化を残された道具である石器の形状と作り方の変化、つまり打製石器と磨製石器の材質と用途の違いから説明する所が最初の読みどころ。
 地母神信仰から太陽神信仰が生まれてくる原始宗教の変化から巨大巨石遺跡、たとえば世界各地にある不思議なストーンサークルの謎に迫る所が次のポイント。技術と道具と材料のないところに建造物はありえないが、目的のない建物を人間が作るはずがない。HOWとWHY、この二つの要素をきちんと書いている所がこの先生のバランス感覚というか、学問のセンスのよさ。読者がガキだからといって、手抜きしない。まあ、僕も東大教授に向かってよく言う。もちろん本人の前ではよーいわん。
 
この後、話題は日本の建築物に移り、伊勢神宮、出雲大社、春日大社の三つの神社建築の特徴の説明。コレが実に面白い。
 世界史の中にこの列島の文化の特徴を置いて考える。日本は特別なんて言わない。そこがさわやか。
 時代的に近世以降が駆け足になってしまったきらいがあるのが残念といえば残念。
​​この本を読みながら真木悠介という社会学者が北アメリカのネイティブ・インディアンの文化について書いている「気流のなる音」(ちくま学芸文庫)という本を思い出した。知っている人には、ちょっと不思議な連想に思えるかもしれない。
 藤森は建築という文化現象を、人間が何故建築物を作るのか、という根源的なレベルに目をすえて分析している。一方、真木は魔術のような原始的文化現象に現代社会学の目を向けている。たとえば巨石を運んでくる原始の人々の姿を、建築学と社会学の二人の学者が興味津々、遠くの丘の上から眺めている。そんなイメージ。原始的な営みに対して両者ともチャンと驚いている。
 ​​
​​​最初に真木悠介のこの本を読んだ時には心底感動した。やたら回りに紹介した事を覚えているが、読み直して何にそんなに感動したのかと思わないでもないが、やっぱり近代社会の教育制度の中でしつけられた自分の世界の狭さという事に驚いたのだと思う。
 最近は高校の教科書に載せられていたりするが、「さわり」だけだから授業の中では却って扱いにくい。一冊全部読まないと面白さは分からない。
 かつては普通の「ちくま文庫」だったのに、「学芸」文庫に格上げ(?)されて、値段も高くなった。要するにあんまり読まれていないということなんだろう。元々は社会学に分類される内容だが、大学にでも行って学問でもしようという人なら誰でも、その始まりの時期に読む価値がある本だと思う。
 著者は真木悠介というのが筆名で見田宗介という名前の東大名誉教授。単行本の頃は新進気鋭と呼ばれていたような気がするが、いつの間にか名誉教授。みんな年をとるのですね。
 ​​​
​​​話を元に戻すと、藤森照信には「天下無双の建築学入門」という「ちくま新書」がある。一般向けに建築学というガクモンを紹介した本。「人類と建築の歴史」の親本のような内容だが僕には子供向けの方が面白かった。
 この人はひところ「路上観察学」という冗談のような学問を提唱して、小説家で評論家の赤瀬川原平なんていう人たちと一緒に「トマソン」物件の探索なんかに熱中した人で、なかなか学者の枠に入りきらない人だと思う。でも子供向けの方がのびのびしていて面白いところがこの人の人柄なんじゃないかと思うわけで、ぜひ一度お読み頂きたい今日この頃です。(S)
初出2005・9・5改稿2020・02・​​​11

​追記2020・02・12​

​​​​​ これまた、古い「読書案内」のリニューアル版なのですが、何が懐かしいといって、「ちくまプリマー新書」というシリーズが創刊されたのがこの年だったことですね。亡くなった橋本治が、このシリーズの創刊にかかわったことをどこかに書いていましたが、最初の一冊は彼の「ちゃんと話すための敬語の本」という本で、後の四冊は「先生はえらい」(内田樹)・「死んだらどうなるの?」(玄侑宗久)・「熱烈応援!スポーツ天国」(最相葉月)・「事物はじまりの物語」(吉村昭)というライン・アップでした。仕事柄もあって割合読み続けていましたが、退職して手に取らなくなりました。​​​​​
​​​​​ 筑摩書房には「ちくまプリマー・ブックス」という150冊くらいのシリーズ、その前には、1970年から始まった「ちくま少年図書館」という100冊のシリーズがありました。
 「少年図書館」湯川秀樹(物理学者)・臼井吉見(作家)・松田道雄(小児科医)が監修者でしたが、松田道雄「恋愛なんかやめておけ」という伝説の(勝手にそう思っているだけかも?)名著が第1巻でした。もう、「出会えない本たち」なのかもしれませんね。
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最終更新日  2020.12.11 09:03:51
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