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西川美和「すばらしき世界」OSミント
![]() 西川美和という監督の「すばらしき世界」という映画の評判がいいらしいと知りました。昔、ポプラ文庫の「ゆれる」という作品を読んだ記憶はありました。人間という存在の、根底がゆれている、そういう作品を書きたがっている人なんだろうなとボンヤリ感じたことが思い浮かんで、でも、評判になった映画「ゆれる」を見る気にはならなかったのですが、その後、テレビで見たことを思い出しました。 どうしようかと逡巡しましたが、久しぶりのOSミントに出かけました。風は冷たいのですが、今日もいいお天気でした。 建物の窓が遠景で映し出されていて、雪が降っています。カメラがだんだん引いて行って部屋の中で健康診断でしょうか、医者らしい人物と役所広司が対面しているシーンから映画は始まりました。 カン違いかもしれませんが、風景を撮っているシーンが、少し緑がかっている気がしました。この監督の特徴なのでしょうか。 見終えて、心に残ったことがいくつかあります。一つは梶芽衣子が老けたことでした。「女囚サソリ」、あるいは「曽根崎心中の」の「お初」の梶芽衣子が、確かに70歳を超えていることに、「そういえば、あの頃ぼくは20代だったのだ。」と、意味なく感動しました。 二つ目は、あの長澤まさみが、まあ、「やり手」のテレビプロデューサー役で出ていたのですが、エンド・ロールを見るまで気付かなかったことです。ぼくは本当に長澤まさみのファンといえるのでしょうか。いや、ホント! 三つ目は、役所広司の「表情」ですね。最近見た「聖なる犯罪者」というポーランド映画で、内なる「暴力性」を隠し続ける青年の「表情」のドラマに感動しましたが、この映画を、その題名のモジリでいえば「お人好しの犯罪者」とでもいえばいいのではないでしょうか。 役所広司が演じる主人公三上正夫は、その「存在」の内側から、制御不能のまま噴き出してくる「暴力」に晒され続けた男であり、二十数年間の刑務所暮らしの人生を生きてきた人物なのですが、その「暴力」を禁じられた「カタギ社会」での生活の中での「戸惑い」や「たじろぎ」の、「たよりない表情」を演じる役所広司には目を瞠りました。 母の行方を探るために訪れた児童施設で、一瞬、「母か?」と思わせる女性と出会い、実は、母の消息が完全に失われていることを知るという一連の流れの後、施設の庭で子供たちとサッカーをするシーンがあります。上のチラシのシーンです。このシーンがクライマックスだと思いました。 書きかけの入れ墨を背中に隠したながら、子供たちと一緒に走っている男の笑顔を見て、内側から湧き上がってきてしまう「暴力」をなだめるはずだった、たった一つの契機であるはずの「母」を永遠に失った男の哀しみが「笑っている」と思いました。 「ああ。この人は、この「すばらしき世界」で、こうやって生きて来たんだ。それにしても、ここから生きていくことができるのだろうか。」 それが、この場面を見ながら思ったことでした。それにしても、役所広司の表情が光った場面であり、映画だと思いました。 映画は予想通り(?)三上の命を絶つことでラストシーンに向かいました。映画の主人公は「お人好しの犯罪者」ではなく、「すばらしき世界」であるということなのでしょうが、どうだったのでしょう。 ![]() 言わずもがなになりますが、西川美和という「表現者」は、「ゆれる」という小説でも思いましたが、わかってほしい人なのでしょうね。ただ、わかってほしいと感じさせる作品は、何というか、あと味が、少々、めんどくさいですね。 帰り道で見上げた夕暮れの空に半月が出ていました。映画の中に、夜空の星を映すシーンがありましたが、あの星は何だったんでしょうね。 監督 西川美和 原案 佐木隆三 脚本 西川美和 撮影 笠松則通 照明 宗賢次郎 音響 白取貢 美術 三ツ松けいこ 衣装デザイン 小川久美子 音楽 林正樹 キャスト 役所広司(三上正夫・ムショ帰りの男) 仲野太賀(津乃田龍太郎・テレビのディレクター) 六角精児(松本良介・町内会長) 北村有起哉(井口久俊、区役所の人) 白竜(下稲葉明雅・兄貴分) キムラ緑子(下稲葉マス子) 長澤まさみ(吉澤遥・テレビのプロデューサ) 安田成美(西尾久美子・別れた妻) 梶芽衣子(庄司敦子) 橋爪功(庄司勉・身元引受人・弁護士) 2021年・126分・G・日本 配給ワーナー・ブラザース映画 ![]() ![]() ![]() ![]()
最終更新日
2021.02.25 01:58:08
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