6857526 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

再出発日記

再出発日記

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

フリーページ

カテゴリ

お気に入りブログ

映画「あまろっく」… New! 七詩さん

視聴中ドラマ New! はんらさん

発注した後で チル… New! ポンボさん

徘徊日記 2024年4月… New! シマクマ君さん

源氏物語の紫式部日… New! Photo USMさん

カレンダー

2010年09月12日
XML

「義民が駆ける」藤沢周平 中公文庫
数少ない未読の作品である。時は天保の改革の前期、水野忠邦は幕閣の地位固めの時期に入っていた。その時期に起こる極めて政治的な事情による転封の幕命に荘内藩は激震する。

先ずは幕府内の力関係から描き、いわれ無き幕命に政治工作を工夫する地方の政治首長とエリート武士たちの苦悩を描き、そのあとにやっと農民たちの動きを描く。

幕府も、藩も、そして農民も、自分たちの利益のみを考えて動いているというのはそれぞれ同じではあるが、質的にも量的にも最も被害をこうむるのは農民である。しかし、水野忠邦はもとより、荘内藩主酒井忠器もそんなことは思いつきもしない。

確かに幕閣も藩閣も賢いし、先を先を読んで必要な手立てを打つ。しかし、農民たちもそれに劣らず賢いのであった。もとより、動いたのは学問のある肝いりや庄屋筋ではある。彼らは、すぐさま、「国替えとなれば旧藩は一合でも余分に米殻を取り立てようとするだろうし、新領主は過酷な取立てで有名な川越藩である。必ず死者が出る」と予想する。「目の前にいる農民のほとんどが一挙に貧困に陥る、」と予想する。彼らはすぐに決断する。旗をさす。それはほとんど一揆と同じことだ。先ずは命を掛けなくてはならない。しかしやる、と決心する。そうして組織する。そして、表面上は「百姓といえども二君に仕えず」という有名な幟を掲げ、善政藩主を守り抜く、という建前の嘆願書を書いて、その一方でうまくいかなかったときは一揆も辞せずという刀を隠し持って「御公儀」江戸に大挙して赴くのである。

農民としては非常に巧妙な手はずであった。その組織性は藩のエリートには当面として利益にかなったが、一方では震撼させるに充分な力があっただろう。

藤沢周平の作品では、歴史小説の部類に入る。半分は歴史資料を駆使し、当時の手紙類をそのままわれわれに提示する。候文がそのまま出てくるので分かりにくい部分もあるが、事実が分かっている部分はみな歴史的事実なのだろうと想像できる。ほとんど無名な人物もまず実在の名前として出てくる。最終的に浮き上がるのは、農民のしたたかさであり、もうひとつ浮き上がるのは、しかしそれでも、国替えを阻止したのは、政治的思惑のいくつかが僥倖に恵まれたからただということも分かる。けれども、政府の内紛に翻弄されるのはいつも民衆だ、ということもわかる。そのとき、民衆にできる最低のけれども最高の抵抗運動がここにある。

江戸時代に革命思想は無かった。けれども、民衆は自ら必要だと思ったときには非常に組織的になる。これはすばらしく(沖縄問題含めて)現代に通じる歴史の教訓なのである。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2010年09月12日 07時25分57秒
コメント(2) | コメントを書く
[読書(09~フィクション)] カテゴリの最新記事


キーワードサーチ

▼キーワード検索

コメント新着

永田誠@ Re:アーカイブス加藤周一の映像 1(02/13) いまはデイリーモーションに移りました。 …
韓国好き@ Re:幽霊が見えたら教えてください 韓旅9-2 ソウル(11/14) 死体置き場にライトを当てたら声が聞こえ…
韓国好き@ Re:幽霊が見えたら教えてください 韓旅9-2 ソウル(11/14) 死体置き場にライトを当てたら声が聞こえ…
生まれる前@ Re:バージンブルース(11/04) いい風景です。 万引きで逃げ回るなんて…
aki@ Re:書評「図書館の魔女(4)」(02/26) 日本有事と急がれる改憲、大変恐縮とは存…
北村隆志@ Re:書評 加藤周一の「雑種文化」(01/18) 初めまして。加藤周一HPのリンクからお邪…
ななし@ Re:「消されたマンガ」表現の自由とは(04/30) 2012年に発表された『未病』は?
ポンボ@ Re:書評「図書館の魔女(4)」(02/26) お元気ですか? 心配致しております。 お…
むちゃばあ@ Re:そのとき 小森香子詩選集(08/11) はじめまして むちゃばあと申します 昨日…
KUMA0504@ Re[1]:書評「どっちがどっち まぎらわしい生きものたち」(02/26) はんらさんへ 今気がつきました。ごめんな…

バックナンバー

・2024年04月
・2024年03月
・2024年02月
・2024年01月
・2023年12月
・2023年11月
・2023年10月
・2023年09月

© Rakuten Group, Inc.