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カテゴリ:洋画(11~)
しばらく父親の顔は出てこない。自転車の前に座らされて風を切って走る生涯忘れられない瞬間、お父さんのお酒を少し飲んで知ったばかりの歌謡曲を歌ったこと、よそ行きの服と靴を買って貰ったときの嬉しさ、田舎道でバスを緊急停車させて用を足したあと田んぼの泥濘で靴を汚してしまったこと。そんなことだけが9歳の少女の記憶に刻まれる。名優ソル・ギョングの顔が映るのはほんの一瞬である。寂しくすまなそうな貌はおそらく少女の記憶の中には落ちていなかっただろう。
1975年、児童養護施設に預けられたジニは、父が必ず迎えに来ると信じ、頑なに周囲と馴染もうとせずに反発や反抗を繰返す。秋から春にかけて、それでも仲がよくなった11歳のオンニはアメリカに養子に行った。一番年長のオンニは、初恋が破れ、韓国の家庭に「家政婦」を覚悟して出て行った。終始、不機嫌な顔をしていたジニだが、それでもフランスの夫婦から養子にもらいたいと申し入れがある。彼女がフランスの空港に降り立つ顔はまさによそ行きのような顔であった。 ![]() 監督 ウニー・ルコント 出演 キム・セロン (Jinhee) コ・アソン (Ye-shin) パク・ミョンシン (Bomo) ソル・ギョング (Jinhee's father) パク・ドヨン (Sookhee) 少女の言葉は少ないが、その行動で十分に気持ちは伝わる。門から出て、一人で父親を探そうとしたり、少しづつ穴を掘って自らを生き埋めにしようと試みたり。その試みを諦めて施設に戻っていく描写は無い。養子に出る少女たちを送り出す「蛍の光」と「ふるさと」の歌が三回歌われるのも効果的である。三人ともまったく同じ表情をして、同じタイミングで門を出て行くのである。女性らしい細かな演出と女性らしくない大胆な編集が、非凡なものに感じた新人女流監督だった。 「グエムル漢江の怪物」の少女(コ・アソン)が年長のオンニを演じていて、流石だった。自殺を試みて、みんなの前で反省の弁を言っているときに、幼児たちの笑顔に連れられて泣き顔がだんだん顔がほころぶところが、彼女たちが本当に少女なんだな、というところが分かる。 韓国では昔は養子として外国に行くことが普通だったようだ。そうやって、成人して韓国に戻ってくる映画やドラマが絶えない。彼女たちは死んでしまった小鳥のように深く深く傷つく。そして、秘密の缶のケーキのように甘い甘い瞬間も過ごすのだ。 原題は「ヨヘンジャ」。(旅する子供)という意味だろうか。これは邦題の方が素晴らしい例となった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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