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カテゴリ:邦画(11~)
「春との旅」昨年のマイ邦画ベスト2の作品。北海道から東北をめぐってまた北海道に帰るロードムービーである。しかし「サーカスな日々」さんからTBをもらって気がついた。急いでDVDを借りに行った。津波に流される前の気仙沼が映っていた。震災前の仙台も映っていた。
小学校しか出ていない忠男は、おそらく周りに色々と迷惑もかけただろう漁一筋で生きてきた男である。女房にはとっくの昔に死なれ、娘は五年前に自殺した。二十歳の孫娘の仕事場が無くなり、足の悪い彼は兄弟に養ってもらおうと気仙沼、鳴子温泉、仙台を旅する。心配になった孫娘の春が着いていく。 忠男が故郷の気仙沼の港を歩きながら呟くシーンがある。「小さい頃津波に遭ってさあ、そこら辺りに家があったんだけど、流されたんだあ。借金して高台に家を建てたんだけど、金に困ってよお、16歳のときだったか、困窮する家族を助けるためにニシン漁に行ったんだ」彼のうしろには、今は流されてしまったに違いない漁船が並んでいた。田中裕子が経営する食堂は街の中に在った。あれは津波にやられたか、その後に続く大火災にやられたかしただろう。 ![]() 何度も大船渡線の鹿折唐桑駅が映った。気仙沼駅のすぐそばの駅である。ここももしかしたら火災にやられたかもしれない。 私は去年の記事で「この映画の射程は長い。日本の老いを見つめようとするとき、何度でも顧みられるべき作品だと思う。」と書いた。しかし、それだけではなかった。 今になって気がつく。この物語は、昭和の初期、津波という大災害に見舞われた家族が、我慢強くて無骨な東北の五人の兄弟たちが、それでも立ち上がり戦後を生きて行き、そして疲れて老いつつある景色を描いた作品だったのだ。長男の大滝秀治は、苦労して建てた父親の家を処分して資産家の家に養子に入る。息子の言いなりに老人ホームに入る予定。長女の淡島千景は鳴子温泉に嫁に行き、苦労して旅館を経営している。二男の仲代達矢は唯一漁師を継いだ。ニシン漁で借金を返したまでは良かったが、その漁が左前になると兄弟に大きな迷惑をかけた。三男の柄本明は仙台で不動産屋の娘と結婚して一時期商売を広げたが、バブル崩壊で左前になる。四男は人の良さで他人の罪をかぶって八年も刑務所暮らしをしている。 長女の淡島千景は言う。 「つらいから生きていけるんだ、と思うようにしたの。 そう思うとすごく楽!悩んでいたの、なんだったんだって思うようになる。」 思うに、東北人の生きる知恵だろう。 希望はある。春という名前の希望が。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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